86億円超の大ヒット『永遠の0』、感動を打ち消すラストにわずかな希望の光が!?
『永遠の0』の原作は文庫本で600ページ近くあって長く、映画版では人物やエピソードを融合してうまくまとめられているとは思う。後々、重要になってくる役どころに、ヴェネツィア国際映画祭で最優秀新人賞を受賞した染谷将太という印象的な顔立ちの俳優を配して観客に記憶づけるのもニクいやり方だ。また、原作では終盤になって登場する田中泯扮する裏社会の親分らしき景浦を、映画版では前半で登場させ何もわかっていない若造である健太郎をビビらせるといった仕掛けは面白くもあり、戦争の重さを感じさせて効果的と言える。
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しかし、健太郎は何も考えを持たなかった若者の代表としてそれでいいかもしれないが、原作にあるフリーライターの姉が海軍の出世システムを批判するくだりや、姉の求婚者であり新聞記者である高山という登場人物も省略されているのはいかがなものかと首を傾げてしまう。原作通りでは新聞社批判も入り思想色が強くなってしまうことはわかるが、やはり“特攻隊”という作戦自体が問題視されるものだということは作品のなかで論じられるべきだろう。
映画版のなかでは健太郎の友人が合コンの席で「特攻隊って言わばテロリストじゃね?」という意味合いの言葉を投げかけ、健太郎が反論するが、これは乱暴な脚本だろう。だいたい今の一般的な若者が「特攻隊ってテロリストのようなもの」という穿(うが)った考えをとっさに持つだろうかと思えるし、酒の席で揶揄しただけのイメージで流されてしまう。原作の新聞記者・高山の相応の知識と考えを持った人間から放たれてこそ、意味が出てくるのに。
命を落とすことを避けてきた宮田がなぜ、最終的に特攻を志願したかという謎も登場する。実はこれは原作でもそうなのだが、結局この謎に対して明確な答えは提示されず、受け取る側はもどかしく思う。しかし、ざっくり言ってしまうと、“戦争がそうさせた”“当時を生きた者でないとわからない戦中独特の空気がある”というニュアンスは感じることができる。しかしながら、映画版になるとセリフでは出てくるものの印象には残らず、このぼんやりとしていつつそれでいて大事な部分が抜け落ちているように感じられる。
映画版ではそれよりも死にゆく特攻隊青年たちのメロドラマのほうに飲まれてしまうのだ。これでは特攻隊賛美と言われても仕方ないのではないか。“お国のために命を捧げる”姿に観客は涙してていのか?と不安が胸にこみ上げてくる。
そんなとき、ラストのラストにVFX大好きの山?貴監督がやってくれた! 三浦春馬も涙を流しているところに、VFXを駆使したどっちらけシーンが登場! これには唖然。メロドラマ涙もピタリと止まる。また宮田役の岡田准一の戦争ドラマには似つかわしくないバタくさい顔立ちがこのシーンのために起用されたのかと思うぐらいにハマっていて失笑さえ誘う。さらにサザンオールスターズの主題歌が流れ、またまた桑田佳祐のバタくさい歌声が追い打ちをかけるのである。
このラストで、“これはあくまでフィクションの世界なんですよ〜”と観客を我に返らせようという寸法か! それなら前述のマイナス要素を帳消しにすることも考えてやろう。どうかそういう良心であってほしいと願う。いっそのこと、この手の邦画の2本に1本は出演している感のある「探偵!ナイトスクープ」の探偵局長・西田敏行を出せば、我に返らせるのに一層、一役買ったかもしれない。(文:入江奈々/ライター)
『永遠の0』は全国公開中。
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