【元ネタ比較】後編/原作の爽やかさが損なわれ残念。早見あかりの美しさも裏目に

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『百瀬、こっちを向いて。』
(C) 2014 映画「百瀬、こっちを向いて。」製作委員会
『百瀬、こっちを向いて。』
(C) 2014 映画「百瀬、こっちを向いて。」製作委員会

『百瀬、こっちを向いて。』
特筆すべきはひろみの起用だけ?

学校一の美人・徹子先輩とつき合う幼馴染の瞬先輩から、彼の三角関係の彼女である百瀬とカモフラージュとしてつき合っているフリを頼まれた冴えない高校生・ノボル。恋愛においてメインキャストではない彼の切ない想いを描いた、中田永一(=乙一)原作による同名小説の映画化『百瀬、こっちを向いて。』。

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元ももいろクローバーの早見あかりは美形過ぎる点がアダとなって、百瀬役としてイマイチ光らなかった印象だが、主人公・ノボル役の竹内太郎はなかなかのハマりっぷりだ。原作のイメージでは『大人ドロップ』の前野朋哉にでもお願いしたいぐらいの冴えなさっぷりで、テレ朝の女子アナ・竹内由恵を姉に持つ竹内太郎はもとがイケメン過ぎるところ。しかし、イケメン俳優の美形隠しの定番である黒縁メガネで覆い隠し、ネガティブなオーラも漂わせつつ、主人公として観客の共感を呼ぶいじらしさも備えている。

成長したノボルを演じるのは、やはりイケメンの向井理だ。しかし、彼はイケメン隠しか役作りか、覇気がなくただ暗く見えてしまう。ちなみに本作を、早見あかりと向井理がガッツリ共演するラブストーリーかと勘違いするかも人もいるだろうが、そんな期待は裏切られることを明記しておこう、念のため。

そして、大人に成長した徹子なのだが、彼女がまたネットリしていてやけに意味深でコワい。この四角関係で唯一カヤの外である徹子がピュアに見えるからこそ、他の3人の罪悪感や徹子がピュアなだけじゃなかったという奥深さが成立するのに。大人に成長したノボルと徹子に爽やかさが欠けるために同時進行で描かれる高校時代もなんだかどんよりして見える。原作は甘酸っぱく、ほろ苦く、それでいてどこかコミカルで、清涼感もあるのだ。

映画版では原作をさらに発展させた部分も描かれる。百瀬が幼い弟妹の面倒を見る長女であったり、瞬の父親が死去していたり、さまざまなアレンジがなされている。原作を深く掘り下げようという姿勢は買いたいが、どれも浪花節的にドラマチックで原作の持つ軽やかさがなく裏目に出ているように感じられた。とくに、ノボルと瞬が対峙するシーン、瞬が典型的な悪役となってしまうのはガッカリだ。4人とも善人ではないが、かと言って悪人でもないところがこの物語の良さなのに。さらに、表題でもある「百瀬、こっちを向いて。」のセリフを語るシーンが原作とは違うのだ。原作では、この2人はこれからどうなるのかなぁとその後の展開に希望を持たせてくれるのに。

特筆すべき評価ポイントはひろみの起用だろうか。ひろみとはお笑いコンビ“第2PK”のボケ担当の芸人だ。人気バラエティ「ロンドンハーツ」のドッキリ企画で、驚異的な天然っぷりと温和ぶりを見せ、腹黒さが微塵もないために田村淳のお気に入りになり損ねるというキャラクターの人物。監督も「ロンハー」を見ており、本作の起用へと繋がったそうだ。ひろみが扮するのは、人づき合いが苦手なノボルの唯一の友達と言える田辺役だ。田辺も“人間レベル2”の人種だが、ノボルに寄り添って温かく見守り、ここぞというときに心に染みる助言をしてノボルを救う影のヒーローで、実はファンの多い登場人物だ。その田辺に純真の塊であるひろみをキャスティングするのは、その勇気も含めて拍手を送りたい。ひろみも期待に応えるべく、芸人の映画出演によくあるサムい演技にはならず印象に残る好演を見せている。

しかしながら、ひろみの起用しか賞賛できないのでは残念。厳しいことばかり言ってきたが、全体的にオリジナルも加えつつ、透明感あってみずみずしい感触は原作のテイストを残しているので、つい惜しい気がするのだ。原作にはない引用を用い、青い花をモチーフにしたオープニングは高揚感あって、映像も美しく期待させられただけに……。

──と、熱くなってしまったが、監督は映画館でお馴染み「NO MORE 映画泥棒』の演出を手がけ、本作が長編デビューとなる耶雲哉治。監督、原作者共に岩井俊二監督の『花とアリス』が好きで影響を受けたというから、ムキになるだけ損ってものかもしれないが。(文:入江奈々/ライター)

『百瀬、こっちを向いて。』は5月10日より全国公開される。

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