昨年、ユニバーサルミュージックがリリースした「永遠のサントラBEST & MORE 999」は、その名前の通り税込999円(現在は1027円)という低価格で洋画/邦画/テレビドラマのサウンドトラック170タイトルを集めたシリーズ。何度かのレーベル買収によってメガ・レコードカンパニーと化したユニバーサルだけに、フィリップスやデッカ、アイランド、A&Mなど、1950年代から現在までの名だたるレーベルのカタログがズラッと並ぶ図は壮観で、けっこうな話題を呼んだ。
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DVDやBlu-rayソフトのドラスティックなまでの低価格化、と言うか値崩れ傾向に、映画ファンは日々一喜一憂という感じだろう。通販サイトだったら、先週ポチったタイトルが今週は半額以下に……なんてことはざらだし、その逆ももちろんある。廉価で再発されるペースもかなり早い。それはCD市場でも同じだ。ロックやポップス、クラシック、ジャズなどのジャンルを問わず、1000円前後の廉価版がレーベル単位で大量にリリースされるケースが増えている。
その波がいよいよサントラの分野にまで押し寄せてきたというわけだ。ユニバーサルに続いて、今度はワーナーミュージックが「フォーエヴァー・サウンドトラック1000」というシリーズで、6月と7月に各50タイトルずつ、計100タイトルをリリースする。ワーナーが長年展開している廉価版シリーズ「フォーエヴァー・ヤング」のサントラ版といったところだろうか。これがまたユニバーサルに負けず劣らず古今東西のさまざまなタイトルを揃えていて、ちょっとすごいことになっている。
今回のラインナップを眺めてみると、コンピレーション・アルバムもしくはトータル・アルバムとしての魅力を持った作品、つまり全体を通して聴いてみたくなる作品が思いのほか多いことに気づく。サントラと言うと、大抵の場合はお目当ての主題歌なり劇中曲だけをピンポイントで聴いておしまい、というケースが多いと思う。まあ、聴く人のなかでその音楽が映像と同等かそれ以上の価値を持っていなければ、DVDやBlu-rayではなく、あえて音しか入っていないサントラを買って、しかもそれを通して何度も聴こうというところまではいかないだろう。それは自分の経験からしても分からないことではない。が、『サタデー・ナイト・フィーバー』や『スタンド・バイ・ミー』、『ブルース・ブラザーズ』あたりを例に出すまでもなく、コンセプトが明確なサントラのなかには、それに見合う評価とセールスをすでに確立しているものも多いわけで、こういうまとまったシリーズが出ることは、アルバム単位でサントラを聴くことの面白さを再発見できるいい機会になるのではないかと思うのだ。
たとえば、80年代に対する気恥ずかしさがまだ残る90年代に堂々と80’sリバイバルをやってのけた『ウェディング・シンガー』。なかなか使用許可が下りないと言われるレッド・ツェッペリンを含むロック・クラシックの数々を収録した『スクール・オブ・ロック』。2011年には自身がミュージシャンとして還暦過ぎのデビューを果たしてしまったデヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス』。新旧入り交じるビッグネームの曲たちを見事に映像とシンクロさせたキャメロン・クロウの『バニラ・スカイ』。同じく音楽への造詣の深さで知られるクエンティン・タランティーノの諸作。いずれも映画としてだけでなく、サントラとしても独自のトーンを持った、トータル性の高い作品だ。
音楽ファンなら、好きなアーティストが大々的に参加している作品であれば、それを聴き逃す手はない。“サントラの皮をかぶったオリジナル・アルバム”として名高いプリンスの『バットマン』、映画そのものはろくにDVD化もされていないのにドナルド・フェイゲンがスコアを手がけていることでサントラは人気の『ブライト・ライツ、ビッグ・シティ』、もしかしたら本人のソロ・アルバムよりも人気があるかもしれないライ・クーダーの『パリ、テキサス』や『ジョニー・ハンサム』などなど。
2500円とか3000円を出してまで買うのはちょっと……とためらっていたタイトルを気軽に手に取れることが廉価版の魅力だとすると、その対象として“千円サントラ”は恰好のジャンルのはず。映画を見ず、“聴く”ことによって、好きな作品に別の角度からアプローチすることができるだろう。そんな意味でも、税込1080円の投資はけっこう価値のあるものではないかと思う。 (文:伊藤隆剛/ライター)
「永遠のサントラBEST & MORE 999」公式サイト
http://www.universal-music.co.jp/ost999/
「フォーエヴァー・サウンドトラック1000」公式サイト
http://wmg.jp/special/soundtrack1000/
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