【週末シネマ】ファレリー兄弟にも通じる秀逸センス。世界が注目の日本人監督デビュー作

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『サケボム』
(C) 2013 pictures dept./Sake Bomb Films,LLC
『サケボム』
(C) 2013 pictures dept./Sake Bomb Films,LLC

『サケボム』

“サケボム”とは、アメリカで流行っているというカクテルの名前。ジョッキいっぱいのビールの中に、日本酒を入れた盃を爆弾投下のように落として飲む。映画はこのイースト・ミーツ・ウエストなカクテルにちなみ、日本からアメリカに来たナイーブな青年と皮肉屋で口の悪い日系アメリカ人のいとこが旅する数日間をコメディ・タッチで描くロードムービーだ。

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2ヵ月間つき合った後に帰国し、以降は梨のつぶての“恋人”オリビアを追って渡米した主人公・ナオトを演じるのは『偉大なる、しゅららぼん』や大河ドラマ『軍師官兵衛』で大活躍中の濱田岳。創業300年の伝統ある酒蔵で働く彼が、社長から突然後継者に任命されるところから物語は始まる。「今のうちにバカをやっておけ」と1週間の休暇をもらった彼はオリビアを捜そうと渡米、ロサンゼルスの親戚を訪ねる。そこにいるのが同じ歳頃のいとこ・セバスチャンだ。仕事にも就かず、彼女にふられたばかりの彼が熱中しているのは、インターネットの動画サイトにアジア系男子の怒りをブラックジョークにしてぶちまける動画をアップすること。そんなひねくれ者の彼は父に言われて渋々、ナオトと2人でオリビアが残した連絡先を頼りにサンフランシスコ近郊へと車で旅に出る。

携帯もパソコンも持たない純朴なナオトと、日本語を全く喋らずひねくれ者のセバスチャン。水と油の2人の珍道中という定番の設定と、海外で現地の人と交流した経験、あるいは生活したことがあればなおさら、「わかる!」とうなずく典型的なエピソードを並べていく手堅い手法で、アメリカ在住のサキノジュンヤ監督は“人種のるつぼ”アメリカにおけるアジア系のアイデンティティというテーマを浮かび上がらせる。

ちょっとおめでたいんじゃないかと思うくらい、のんびり優しいナオトは外国人のお客様。だが、彼と見た目は全く同じアジア系でもアメリカ人であるセバスチャンや彼の友人たちのなかには、否応なく生まれ育ったアメリカとルーツである国の2つの文化が存在する。そのギャップにスポットを当てたのは興味深い。アジア系への偏見に苛立つセバスチャンを演じるのは韓国系アメリカ人のユージン・キム。毒吐きは劣等感でがんじがらめになった強がりの結果、という複雑な人物像をチャーミングに演じている。

サキノ監督は単身渡米し、映画を学んだ後もロサンゼルスを拠点に岩井俊二や紀里谷和明の作品にも参加している。日本とアメリカに限定せず、アジア系やユダヤ系、ゲイなどあらゆるマイノリティを登場させ、不適切スレスレのジョークで飛ばしていく作風は、『メリーに首ったけ』や『愛しのローズマリー』のファレリー兄弟をちょっと思い出させる。あんなことも、こんなことも、それら全てをのみこんで形成されるアメリカという国そのものを表したかのような青春ロードムービーにして風刺コメディ。独自のセンスが光る注目作だ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『サケボム』は5月24日より新宿シネマカリテほかにて全国順次公開。

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[動画]映画『サケボム』 予告編