『捨てがたき人々』
人間の欲と業を暴くジョージ秋山の原作漫画を映画化
このところ、鬼才漫画家・ジョージ秋山の問題作が見直されてきている。それまでは「恋子の毎日」や現在も連載中の「浮浪雲」といった、ポジティブで明るい作品に目を向けられることが多かった。
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ジョージ秋山は1970年に「銭ゲバ」と「アシュラ」を立て続けに発表し、人間のモラルを真っ向から問う内容に批判の声も高く、世間を騒がせた。「銭ゲバ」では極貧と不幸な生い立ちから、邪魔者を殺しながら金と名誉のために突き進む主人公を描き、「アシュラ」では平安時代に飢餓から人肉を貪り、我が子まで焼いて喰らおうとする母親を描いている。漫画界には気骨溢れる切込隊長がいるが、ジョージ秋山もそのひとりと言えよう。最近では福島県の放射能汚染の問題を描いた雁屋哲原作の「美味しんぼ」も話題だ。賛否は置いておくとして、まさにペンは剣よりも強しというところだ。
秋山の“問題作”は、「銭ゲバ」が2009年に松山ケンイチ主演でテレビドラマシリーズ化され、2012年には「アシュラ」がフルCGでアニメ映画化されている。そして今回、ジョージ秋山が1990年代後半に手がけた「捨てがたき人々」が実写映画化された。「捨てがたき人々」は「銭ゲバ」や「アシュラ」ほど強烈でショッキングな内容ではないが、逆に、身近なリアリティをもって人間の欲と業を暴き出している。
主人公は金も仕事も夢もなく不細工で自堕落で、セックスのことばかり考えているどうしようもない男、狸穴(まみあな)勇介。「生きることに飽きちゃったなぁ」というほど無気力なくせに、世の中への不満をセックスにぶつけようとしているようにとれる。人並み以下で劣っている人間なのに、いや、だからこそ人から蔑まれると自尊心が傷つく。彼が人に対して優位に立てていると思えることと言えば、唯一、乱暴にセックスして女性を性的に満足させることぐらいなのだ。
なんて卑しくて情けない姿なんだろう。人生に捨て鉢になっているように見えて、いやいやどうして未練がましくいろんな欲を捨て去ることができない、まさしく“捨てがたき”人。映画版ではそんな男を大森南朋が人間くさい魅力をにじませながら体当たりで演じきっている。中編へ続く…(文:入江奈々/ライター)
・【元ネタ比較】『捨てがたき人々』中編
・【元ネタ比較】『捨てがたき人々』後編
『捨てがたき人々』は6月7日よりテアトル新宿ほかにて全国順次公開される。
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