ピエール・ニネ
「この役を演じられると思ってもらえたんだ。自分はとても幸運だと思ったよ」
20世紀ファッション界に君臨した天才デザイナーの半生を描いた『イヴ・サンローラン』でタイトルロールである主人公を演じたピエール・ニネは、大抜擢された時の気持ちをこう語った。「24歳の僕が、これほど伝説的な存在で、鮮烈で複雑な役をオファーされることは滅多にないことだから」
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1957年、21歳でデザイナー・デビューを果たし、26歳で自らの名を冠したブランド「YVES SAINT LAURENT」を立ち上げた天才を演じるピエール自身も、同じく21歳のときに史上最年少でフランスの国立劇団「コメディ・フランセーズ」準座員となった才能あふれる若手俳優だ。美しい顔立ちと細身な体型は実物そっくり。資料映像で見知っているイヴ・サンローランと声のトーンや話し方、シャイな素振りも劇中で完ぺきに表現している。
だが、映画のプロモーションで来日したピエールは、姿形にはイヴの面影をまだ残しつつも、まっすぐ相手の目を見つめてハキハキ話す。自分でも、演じた役とは「全然似てない。だから、準備にすごく時間を要した」と笑う。ただ両者には唯一、そして最も重要な共通点があった。とても若くして、自分の進む道を見つけたことだ。監督であり映画教師の父と美術教師の母のもとに生まれたピエールは11歳から演劇を始めた。
「僕はエネルギーがあり余ってる男の子だったんだ」。演劇に興味を持ったきっかけは「ストーリーを語ることでエネルギーを有意義に使えると気づいたから」と言う。「物語るという行為を通して、人を笑わせたり、泣かせたり、希望を与えることだってできる。まるで超人的な力を手に入れたような気がしたんだ」
自分の情熱をそこに定めて、脇目もふらずに一心不乱に進む。そんな彼は外見もさることながら内面も、イヴ・サンローランを演じるにこのうえない逸材だったのだ。実はファッションにはあまり詳しくなかったそうだが、身を削るようにして、思い描く芸術を形にする渾身の創造という境地を知る者として、魂で役と通じ合っていったことがうかがえる。
俳優としては、毎回スタイルを変えてジャンルの違う作品に挑戦するカメレオンのような存在になりたいという。演じるだけでなく、脚本や演出も手がけ、テレビシリーズや「イヴ・サンローラン・ボーテ」の短編PVなどを撮っている。現在は長編映画の脚本を執筆中。「いろいろなことをしていきたい。僕らの世代は、1人が1つのことだけをやるというのではなく、イニシアチブをもって、いろいろなことに挑戦するべきだと思うんだ」
大役を任されたことに尻込みすることなく、大抜擢した相手側の信頼の証と解釈する。若さと情熱と、良い意味での自信。この3つをバランス良く保っていくことで、彼は今後ますます豊かなキャリアを開拓していくことだろう。(文:冨永由紀/映画ライター)
『イヴ・サンローラン』は9月6日より全国公開中。
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