今日から公開されるレニー・アブラハムソン監督『FRANK −フランク−』は、ミュージシャン志望の主人公=ジョンと、常に張りぼての大きなマスクを被った謎のミュージシャン=フランクが、音楽を通じて交流を深めるコメディ調のドラマ。当代随一のイケメンであるマイケル・ファスベンダーがマスクを被ったまま顔を出さないという贅沢すぎる演出がとかく話題だが、登場人物の個々のキャラクターや彼らの志向する音楽など、すべてがメインストリームから逸脱してビザール。単純なコメディとは言い切れない複雑な空気感を作り出していることこそが本作の魅力だ。一方で、悲喜劇的なヒーローであるフランクと冷静な傍観者であるジョンの関係に、『グレート・ギャツビー』のジェイ・ギャツビーとニック・キャラウェイのそれを重ね合わせる人がいても不思議ではない。そんな懐の深さを持つ映画だ。
なぜフランクはずっとマスクを被っているのか、どうやって食事をしたり風呂に入ったりするのか、本当に最後まで素顔を見せないのか、バンドはどうなるのか……といったことについては実際に映画を見ていただくとして、ここではフランクというキャラクターを形づくる実在のモデル3人──フランク・サイドボトム、ダニエル・ジョンストン、キャプテン・ビーフハートについて触れておきたい。
外見=フランク・サイドボトム、人間性=ダニエル・ジョンストン、音楽性=キャプテン・ビーフハート。フランクというキャラクターの成り立ちを簡単に言ってしまうと、そういうことになる。いずれもミュージシャンではあるが、音楽のスタイルはまるで違う。ひとつだけ共通するのは、3人とも大衆音楽の規格にうまく嵌らない(もしくは嵌ることを拒む)音楽=アウトサイダー・ミュージックの作り手であるということ。彼らの個性が巧妙に組み合わせられることで、フランクにあたかも実在の人物のようなリアリティが与えられている。
まず、フランク・サイドボトム。彼は正確に言うならクリス・シーヴィーというミュージシャン兼コメディアンが演じたキャラクターであり、本作のフランクと同じように常時マスクを着用している(マスクの形状もほぼ本作で踏襲されている)。日本でもMAN WITH A MISSIONやGReeeeN、ふなっしーなど、完全なキャラ設定のもと正体を明かさずに活動する人たちはいるが、フランク・サイドボトムはあくまでもシーヴィーの演じるキャラクターという設定なので、在り方としては90年代のダウンタウンによる覆面ユニット=GEISHA GIRLSあたりに近いかもしれない。80年代から90年代にかけてイギリスでカルト的な人気を得て、テレビ番組やライヴで数多くのパフォーマンスを披露している。本来は真っ当なバンドマンで、フレッシーズというバンドやソロ名義で作品を発表していたシーヴィーだが、フランク・サイドボトムとしてはパロディ的なものが多く、クィーンやモリッシー、アークティック・モンキーズなどの楽曲をチープな打ち込みサウンドでカヴァーすることを芸風にしていた。
なんでも本作でピーター・ストローハンとの共同という形で脚本を手がけているジャーナリスト/作家のジョン・ロンスンが、かつてフランク・サイドボトムのバンドでキーボードを弾いていたことがあるそうで、本作はその時の実体験がベースになっているという。劇中でジョンがフランクのバンドに入ることになったいきさつなどは、多少のアレンジを加えながらも大筋で実話に基づいているようだ。そういう意味では、本作のジョンは限りなくジョン・ロンスン本人に近い存在と考えていいのかもしれない。ちなみにフランク・サイドボトムを演じていたクリス・シーヴィーは、2010年にがんで亡くなっている。(…後編に続く)(文:伊藤隆剛/ライター)
・F・サイドボトム、D・ジョンストン、C・ビーフハート、映画『フランク』モデルの3人のミュージシャンを徹底紹介/後編
『FRANK −フランク−』は10月4日より公開。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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