ハリウッドでは、大作を世界的に大ヒットさせるため、長年にわたって計画的なプロモーション戦略を作り上げてきた。4つの段階に分けており、セットビジット(Set Visit)→ロングリード(Long Lead)→ジャンケット(Junket)→ワールド・プロモーションツアー(World Promotion Tour)を行う。各作品で詳細は変わるが、基本的な中身を紹介しよう。
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セットビジットとは、映画市場の大きい数か国(本国・米国の他に日本や中国、イギリスなど)のマスコミを対象に撮影現場を取材させること。公開の1年から数か月前に実施し、取材は各国1人に限定。記事の掲載時期を公開の1か月前以降と設定したり、取材内容を外部にもらさないよう誓約書にサインさせるなど、情報管理を徹底している。マスコミが現場の写真を撮影することはできない。セットビジットがない作品も多く、撮影現場の取材が可能になっても、取材禁止地域があるなど、制限が多い。
ロングリードとは、米国で監督や出演者へ共同インタビューを設定すること。公開の2か月程度前に行う。映画は未完成。主要数か国から10数か国のマスコミを対象に、各国2、3人を招待。日本の取材専門日を設けることもある。雑誌を中心に内容を掘り下げた記事を掲載してもらうのが狙いだ。マスコミがインタビュー中に写真を撮影することはできない。写真撮影がないため、人気スターであってもラフな私服で訪れることも多い。
ジャンケットとは全米公開の10日程度前に米国で監督や出演者へ共同インタビューを設定すること。映画は完成済みで、マスコミ向けの試写後にインタビューを行う。主要国以外にも対象に広げ、テレビやネットも加え、世界中から100人以上を集める。ホテルにマスコミを集め、インタビューもホテルで行うことが多い。なお、マスコミが多いため、「米国内向け」(ドメスティック)と「海外向け」(インターナショナル)とで取材日を分けることもある。
ワールド・プロモーションツアーとは、監督や出演者が宣伝で主要な国を立て続けに訪れること。日本公開が全米公開に近い場合、このタイミングで来日する。ただし、公開が空いているとワールド・プロモーションツアーに組み入れられない。改めて来日PRを行うこともあれば、来日しないこともある。近年、日本では洋画不振のため「来日PRを行っても効果がない」と、人気スターでない場合、来日が行われないケースが増えている。
なお、ハリウッド映画の重要なプロモーションツールにEPK(Electronic Press Kit)がある。映画のシーンや撮影風景などが収録された、プロモーション用業務ビデオのこと。ハリウッドの映画会社(本社)から日本など世界各地の支社へ配られる、作品情報を世界中に浸透させるためのツールだ。各地の宣伝スタッフはこのEPKを宣伝プランの作成に役立てたり、マスコミ向けの資料作成に使用する。出演者や監督の収録インタビューをテレビの情報番組で流してもらうこともある。(文:相良智弘/フリーライター)
相良智弘(さがら・ともひろ)
日経BP社、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て、1997年の創刊時より「日経エンタテインメント!」の映画担当に。2010年からフリー。
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