ローガン・ラーマン
今の世の中、俳優の仕事は演じるだけでは済まされない。映画でもドラマでも舞台でも、出演する作品のプロモーション活動の占める範囲は結構なボリュームだ。だから、若くてもみんなそつなくおしゃべり上手。それがプロというものなのだが、ごくまれに例外もいる。それが『フューリー』のローガン・ラーマンだ。
・単なるセックス・シンボルでは終わらない卓越した才能をもつ天才女優
第二次世界大戦末期のドイツで、ろくに戦闘経験もないまま戦車部隊に配属された新兵・ノーマンを演じている。ブラッド・ピット演じる鬼軍曹のウォーダディーをはじめとする猛者たちに囲まれ、人と人が殺し合うという戦争の実態に直面し、物語が進むにつれてノーマンは大きく変わっていく。心優しく正義や常識をわきまえた純朴な青年の魂が、非情な暴力にさらされることで屈強さを得ていくという過酷な現実をラーマンは見事に演じてみせる。
まだ22歳だが、子役時代からキャリアは長い。『パトリオット』でメル・ギブソンの息子役、『サンキュー、ボーイズ』ではドリュー・バリモアの息子役、『バタフライ・エフェクト』ではアシュトン・カッチャーの少年時代、と名子役として活躍、2010年からは『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』シリーズの主演をつとめ、『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』ではダルタニアンを演じて来日も果たしている。
数々のヒット作への出演し、容姿にも恵まれて順風満帆だが、名声を追い求めるギラギラした感じがまるでなく、その佇まいはむしろ演技派の職人俳優のよう。演技も本当に的確だ。特に、昨年公開された主演作『ウォールフラワー』で演じた精神を病む高校生・チャーリー役は素晴らしかった。ガラス細工のように壊れやすい心を抱えて学校でいじめられていた少年が素敵な仲間と出会い、変わっていく姿を、実に繊細に演じていた。だが、作品の宣伝でアメリカのテレビ番組に出ると、共演のエマ・ワトソンやエズラ・ミラーがよどみなく話している横で、ポツリポツリと発言している。
『フューリー』で来日した際の記者会見でも、トークが苦手そうなのは見てとれた。あれだけの芝居を見せるのに、“映画スター”という役を演じるのはからきし駄目なようだ。今どきめずらしいタイプだが、それこそ、先日突然の訃報が伝えられた高倉健はもちろん、ロバート・デ・ニーロやジーン・ハックマンなど、物語を演じる以外の場では不器用という名優は確かにいる。ローガンはその系譜なのだろう。
どんなに経験を積んでも、悪い意味で馴れることのない純粋さを感じる。ナイーブに思えるほどの素直さで演じる役と向き合う彼は、子役から青年俳優へのハードルを苦もなく飛び越えた。これから20代、30代を過し、歳を重ねても変わらない一途さで役に挑み続けてもらいたい。(文:冨永由紀/映画ライター)
『フューリー』は11月28日より全国公開中。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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