原作と映画版はどうちがうの? どっちの方が面白いの!?「原作あり」の映画を、ライター・入江奈々がめった斬りする連載コラム!
人間くさ過ぎるパラサイトのミギー
(…前編より続く)連載終了から20年近く経った今もファンを魅了し続ける、岩明均原作による奇跡的な大傑作漫画「寄生獣」がついに実写映画化された。監督は、西岸良平原作の滋味溢れる漫画をVFX映画にしたほどVFX大好きな『ALWAYS 三丁目の夕日』や『永遠の0』の山崎貴だ。
普通の高校生・泉新一と彼の右手に寄生した謎の寄生生物・ミギーが、人類を捕食する寄生生物・パラサイトと戦うSFなのだからして、本作でVFXが駆使されるのは当然。VFX技術が進歩したからこそ、やっと映画化できたといってもいいだろう。
原作ファンとしては手ぐすね引いて本作を見てみたわけだが、筆者が信頼していない山崎貴監督だからして、どんな酷評をすることになるやらと思っていたわりには、拍子抜けするほど可もなく不可もなくといった仕上がりだった。しかし、なんだろう、このどこまでも手ごたえのない上滑り感は。
キャスティングは、発表になったときからおそらく多くの原作ファンが悪くないと納得したであろう。主人公の泉新一を演じる染谷将太からして、普通よりもちょっとヘタレなぐらいの一般男子高校生という設定にぴったり。劇中でもイメージを外れることなく、仕事をまっとうしている。高度な知性を持ち、「自分はなぜこの世に生を受けたのか?」と作品テーマの核を成すパラサイトの1体、田宮良子役の深津絵里もなかなかだ。ナチュラルでどちらかと言えばあたたかみのある彼女だが、硬質で冷徹なムードがきちんと感じられる。
と言っても、まだこの2人は普通のキャラクターだ。映画化ニュースを聞いたときから、この映画化の成功のカギを握るのは“ミギー”になる、と読んでいた。新一の右手に寄生するパラサイトのミギーは重要かつ、複雑な魅力を持った存在だ。人類の天敵であるパラサイトに属するが、人類を捕食せず、かと言って味方になるわけでもなく、淡々と保身に回って生存することに徹し、同族のパラサイトの惨殺もいとわない。しかし、知能は高く好奇心旺盛で、感情を持ち感受性の高い人間というものを理解しようともする。そして、なんといってもギョロ目でタラコ唇なビジュアルはチャーミングでときにはコミカルでもある。一言では言い表せない、それが“ミギー”なのだ。
VFXによって、なんというかあまりにリアルになり過ぎればグロテスクになることもあり得る。そんなミギーなんて見たくない、と思っていた。しかし、実写化のミギーはちゃんとコミカルで愛らしい。だが、う〜ん、ちょっと行き過ぎ。声は阿部サダヲがつとめ、パフォーマンスキャプチャーで彼の動きも取り込んで描かれている。そのせいか、どうも人間くさ過ぎるし、愛らし過ぎる気がする。本来は感情を持たないパラサイトに属するミギーだが、阿部サダヲの存在感が大きいからか、人間くさい息吹が感じられるのだ。日本テレビ系で放送中のアニメ版『寄生獣 セイの格率』でミギーの声を担当する平野綾はよくある作り声だが、無機質っぽいミギーのキャラクターに合っていて、さすがプロの声優だと感心させられたのだが。(…後編へ続く)(文:入江奈々/ライター)
『寄生獣』は11月29日より全国公開される。
入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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