原作と映画版はどうちがうの? どっちの方が面白いの!?「原作あり」の映画を、ライター・入江奈々がめった斬りする連載コラム!
駄作に至らず凡作という結果に
(…中編より続く)「ヒストリエ」の岩明均原作により1988年〜1995年に連載された伝説的な大傑作漫画「寄生獣」がついに実写映画化された。人間の頭部に寄生して人間を捕食する生物・パラサイトと、パラサイトのミギーが右手に寄生した高校生の新一による戦いを描いている。危惧していたミギーもグロテスクではなく、原作のイメージと大きく離れず、パラサイトたちのビジュアルも違和感を受けることはなかった。物語も原作を忠実に再現しようとしている。それなのに、心に響くことなく漫然と話が流れていくのを見物するだけで終わってしまった。
ミギーにおいてコミックリリーフ的な面がやや強く感じられたように、全体的にもコミカルで軽いノリがあるからだろうか。しかしながら、そのあたりも原作に忠実なことは間違いない。ただ、漫画におけるシリアスとコメディの緩急をつけた表現を実写でやると上滑りになってしまうのかもしれない。漫画だとシリアスとコメディのけじめがあり、無意識に見る側も切り替えて見ている。しかし、実写でリアルにそれをやられると、シリアス部分も軽く感じられるということか。
序盤、ミギーが右手に寄生し、寝て起きても状況が変わっていないことを、新一は朝になっても悪夢が覚めてくれないとぼやく。漫画と同じなのに、実写だと「こんな状況をそんなに簡単に受け入れちゃうんだ」と引いてしまう。普通の高校生がとんでもない事態に巻き込まれていき苦悩のドラマも描かれるのに、しょっぱなから感情移入できないとその後も上っ面をなぞるだけになってしまう。
原作では、脳みそは残してアゴから胸部だけがパラサイトに乗っ取られた宇田というキャラクターが登場する。コミカルであり、人間ドラマ部分を担う役割だ。出演者発表でピエール瀧の名前を見たときには彼が演じるのかと思ったが、ピエール瀧は三木というキャラクターを演じ、どうやら映画化では宇田は割愛されたようだ。残念な気もするが、コミカル要素が薄まる効果としてはいいだろう。また、キャラクターの割愛でいうと新一の父親も割愛され、母子だけの家庭という設定も、母との絆が強調されて良い脚色であると言えるだろう。
しかし、もっと登場人物やエピソードを減らしてドラマに時間をかけ、コミカルテイストを減らして実写として受け入れやすい演出が必要だったのではないだろうか。感情移入させずに話だけが展開していくとは、形だけ擬態し、感情は欠如しているまさに“パラサイト”のようだ。とんでもない駄作ではないが、これだけの傑作である原作の良さが伝わらないのはもったいない。とはいえ、あまりな駄作は映画史に爪跡を残してしまうが、凡作は時間が経てば忘れられていくのだからして、原作ファンとしては望むところというものか。本作を見た率直な感想は、「あぁ、そうそう『寄生獣』を思い出した! こんな上っ面のダイジェストじゃなく、しっかり原作を読み返したい!」というものだった。これを機に、原作の大傑作「寄生獣」を読んでくれる人が増えることを願う。
これといったマイナス点の少ないこの作品で一番の欠点はこのタイトルかもしれない。念のため言っておくが、今回、公開される『寄生獣』はまったくの前編で、2015年4月25日に後編となる『寄生獣 完結編』が公開される。「2部作で映画化」と聞いていた筆者でさえ、このタイトルを見たときには「あれ、1作で完結にしたのか? あの長編を?」と思ってしまったくらいだ。「2部作だと見に来てくれないのでは? あわよくば1作完結と思ってくれないかなぁ」と弱気になった結果なのだろうか? 公開前の宣伝番組で10分以上も本編を流すし、そこまでしないとお客は映画館に足を運んでくれないと考えているということなのだろうか。(…後編へ続く)(文:入江奈々/ライター)
『寄生獣』は11月29日より全国公開される。
入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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