同級生は、ロックスターの娘やユダヤ人富豪の息子!
マーティン・スコセッシ、ウディ・アレン、スパイク・リーらそうそうたる監督らを輩出したニューヨーク大学映画科。映画界での成功を夢見る人々が世界中から集まる名門学科だ。一説にはハーバードよりも難しいと言われるこの学科を卒業した中村真夕監督が、合格までの過酷な道のり、そして学校での学びについて綴ったエッセイの第3弾。
三度目の正直でニューヨーク大学大学院(NYU)の映画科で学ぶことができるようになった私。一番、最初に取り組むのは5分のサイレント映画を作ることだった。映画の基礎は、映像で物語を伝えることを学ぶことだった。一見、簡単そうに思えるが、映像だけで物語を伝えることの難しさと醍醐味を学んだ。また短編映画は、長編映画を作るより難しいと言われていて、限られた時間の中で、最後に物語のオチがないと成立しない。独特のストーリーテリングが必要で、それを徹底的に叩き込まれた。
・いつか監督になって見返してやる、倍返しだ!/ニューヨーク大学映画科で学ぶということ1
1000人以上の受験者の中から勝ち残った先鋭の35名のクラスメイトのほとんどが監督志望だった。すでに大監督然とした同級生たちもいた。みんな友人というよりは、ライバルという感じだった。有名なロックスターの娘もいたし、ユダヤ人のお金持ちの息子で、自費で長編映画を卒業制作で撮ってしまうような人たちもいた。私は裕福ではなかったので、半分、奨学金をもらいながら、学生ローンを組んで、アルバイトをしながら、なんとか学費と制作費を工面して学んだ。
そんな映画学校生活で仲良くなったのは、韓国人のスブンだった。彼はロスの名門AFIで学んだ後に、NYUに来た監督とカメラマンの両方をできる人だった。優秀だが、かなりの変わり者だった。自分の作品を撮影してもらう他にも、彼が撮影する現場の手伝いもした。アメリカでは撮影が遅くまで続くと夜食にピザが出るのだが、「夜中にそんな胸焼けするもの食べられない」とアジア系のスタッフで中華街まで夜食を食べに行ったのがいい思い出だ。大学以外でもアジア系アメリカン人のフィルムメーカーたちと親しくなり、その中には、ニューヨークでもう一つ有名な映画科があるコロンビア大学の生徒たちもいた。みんなで一緒にワークショップをやって、お互いの脚本について意見交換をしたり、短編映画を作ったりした。お互いに仲がいいとは言えない国々でも、アメリカではアジア系として団結できるのが不思議で、素晴らしいとことだなと思った。その当時の仲間たちとは今でもつながっている。
スパイク・リーにアン・リー…大監督たちの授業で学んだこと
NYUの良いところは、映画業界で活躍する監督たちが教えてくれることだった。3年生になるとスパイク・リー監督の授業があった。基本、彼の映画を見て、彼が授業に呼んだカメラマンや俳優たちに映画作りについて話を聞くというだけの授業だったが、カメラマンのエレン・キュラスや、俳優のジョン・レグイザモから話を聞けるのはとても刺激的だった。また定期の授業の他にも、監督たちを呼んでマスタークラスと呼ばれる課外授業が、とても勉強になった。その中でもいくつか印象に残っている授業がある。アン・リー監督は、いつも図式を書いて、ブロッキングと呼ばれる俳優とカメラの動きを綿密に計算して決めていると明かしてくれた。「クーリンチェ少年殺人事件」などの作品で知られる故エドワード・ヤン監督の授業が特に心に残っている。ヤン監督はとても物腰が柔らかい人で、「映画は誰かに宛てた手紙だ」と言っていた。どんな人にでも、一つは「自分の物語」があり、一本目の映画を作ることができるが、映画監督として続けられるかどうかの勝負は、その「自分の物語」以外のストーリーを見つけて、語れるようになることだと言っていたのが印象的だった。
私がNYUを卒業してから20年近く経って、この夏、やっと自分の劇映画がニューヨークで上映されることになった。今年、劇場公開した映画「親密な他人」がニューヨークアジアン映画祭というニューヨーク最大のアジア系の映画祭に招待されたのだ。上映にはNYUの時の先生たちや友だちも来てくれる予定だ。やっと自分の劇映画をこのような形で、昔の仲間に見てもらえるのがとても嬉しい。そして今回はなんとコンペティション部門の審査員という大役にまで抜擢された。次回のレポートは、その映画祭について書こうと思う。(text:中村真夕/映画監督 『親密な他人』『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』ほか)
・「ニューヨーク大学映画科で学ぶということ 4」(8月27日掲載予定)に続く
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