『フェラーリの運ぶ夢』
今日から公開されるインド映画『フェラーリの運ぶ夢』は、本国では2012年に公開された作品。日本でも好評価を得た『きっと、うまくいく』(2009年インド公開)のラージクマール・ヒラーニ監督が共同脚本を手がけ、そこで助監督をつとめていたラジェシュ・マプスカルが初めて監督に挑戦している。
そんなことからも分かるように、本作は『きっと、うまくいく』と合わせ鏡のような関係にあり、見た後に残る余韻にもどこか共通するところがある。あくまでも娯楽に徹するという従来のインド映画のイメージはそのままに、急成長を続けるインド社会の光と影を物語に丁寧に織り込んでいる。登場人物のキャラクターや“泣き”と“笑い”のダイナミックレンジが広く、それはそのまま現代ボリウッドの受け皿のデカさを示しているかのようだ。
インド映画と言えば音楽、というイメージを持つ人が多いと思うが、本作にに関してもやはり音楽は重要な役割を果たしている。ただし、劇中に歌や踊りが唐突に入ってくる典型的なインド娯楽映画という感じではなく、それらが物語とかなり密接な関係を保っている。本作には、同じく今日から公開されるインド映画『女神は二度微笑む』の主演女優、ヴィディア・バランが特別出演して歌とダンスを披露していたりもするのだが、そのシーンへの流れもスムーズで必然的。これまでインド映画を見ていて時折感じた「えっ? ここで歌?」みたいなことは、本作には見当たらない。
加えて本作に使われる音楽は、どれもアコースティックな風合いを持ったナチュラルな響きが特徴になっている。たとえばインド映画の大御所、ラジニカーント主演の娯楽アクション大作『ロボット』なんかで楽しめるようなハイパーでキレ味の鋭いダンス・ミュージックとは違い、生のグルーヴ感が十全に生かされている。いっぽうで主人公=ルーシーの愛息であるカヨを演じるリトウィク・サホレが合唱団とともに聴かせる澄みわたったボーイ・ソプラノも清々しく、曲調のバリエーションがとにかく豊富だ。(後編へ続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)
『フェラーリの運ぶ夢』は2月21日より公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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