(…前編より続く)このカダフィ大佐の招集した革命家育成キャンプには、ムーサ率いるトゥーマスト以外にも楽器を“武器”に選んだ若者たちがいる。イブラヒム率いるティナリウェンだ。“砂漠のブルース”と呼ばれる彼らの音楽は、2001年に初めてのアルバム『ザ・レイディオ・ティスダス・セッションズ』がリリースされた頃からアフリカ以外の国でも知られるようになり、2012年にはアルバム『タッシリ』でグラミー賞ベストワールドミュージック・アルバム賞を受賞。日本でも2011年のFUJI ROCK FESTIVALに参加するなど、音楽ファンには広く知られる存在になっている。
・【映画を聴く】武器は音楽、自由のために闘うバンドを生々しく描いた『トゥーマスト〜ギターとカラシニコフの狭間で〜』/前編
ちなみにティナリウェンのプロデューサーであるジャスティン・アダムズは、ロバート・プラント(レッド・ツェッペリン)のバンドでギターを弾いている人。プラント自身もティナリウェンの大ファンであることを公言しており、彼らのアルバム『アマン・イマン〜水こそ命』では、「これぞ生涯かけて探し求めていた音楽だ!」という熱いコメントを寄せていたりする。
ムーサはイブラヒムとこのキャンプで出会うことで影響を受けて音楽を始めたと言うから、ティナリウェンはトゥーマストの兄貴分的なバンドと考えていいだろう。トゥーマストの音楽は、現在のところティナリウェンほど広く知られてはいないが、変拍子を多用したリズム・アンサンブルや、コードではなく単音で延々と歌と併走するエレクトリック・ギターには、ティナリウェンに通じる“砂漠のブルース”を確かに感じさせる。
ただ、このドキュメンタリーでは多くの時間をトゥアレグ族の闘いの歴史を追うことに費やしており、彼らの音楽の全貌を知ることができるわけではない。実際、彼らの本格的な演奏シーンは、終盤に差し掛からないとお目にかかれない。本作は、言ってみれば“砂漠の民”であるトゥーマストらトゥアレグ族の音楽に接するための予習教材だ。興味を持った人は、ぜひとも彼らのアルバム『イシュマール』などにも触れてみてほしい。トゥアレグの言葉で“アイデンティティ”を意味するバンド名を持つ彼らの音世界をより深く味わえるはずだ。(文:伊藤隆剛/ライター)
『トゥーマスト〜ギターとカラシニコフの狭間で〜』は2月28日より公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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