静かに熱い真摯な姿勢に好感
アイドル映画にしては、と言いたいが、青春映画として珍しいと言ってもいいほど、男女の恋愛要素のないド直球な青春ドラマ。劇作家であり劇団・青年団を主宰する平田オリザが2012年に発表した処女小説を、ももいろクローバーZ主演で映画化した『幕が上がる』だ。全国大会出場を目標に地区大会、県大会を目指す、地方都市の弱小演劇部に所属する女子高生たちの成長を描いている。
原作には男子の先輩や男子部員もいて、アクセント程度に恋愛も絡んでくる。普通の女子高生を描いているのだから恋愛がないとおかしいだろうという程度だ。でも、映画化では男子の登場人物自体が割愛されて部員は全部女子。
それはそれで潔く、部活にかけた青春に集中して正解だと思う。それに、ももクロは疑似恋愛対象となる男子受けを狙った女子アイドルというより、誰もが応援したくなるがんばってる女の子というイメージだから、彼女たちにも合っている。
また、部活にかける青春映画で弱小部チームががんばると言っても、へっぽこチームが強豪相手に「が〜んばっっChai Maxx! ジョ〜ダンChai MaxX!」というような『がんばれベアーズ』方式なわけじゃない。かと言って少女マンガ風に悪役が靴に画びょう入れたりもしなければ、イケイケなアグレッシブ女子グループが出てきたりもしない。文化部の皮を被ったスポ根系ではなく、さわやかではあるがシリアスな文化部系青春ドラマなのだ。
さらに言うと、演劇というチームワークがものをいう集団作業を題材にしながら、重点が置かれるのは友情よりも、各々が自分とどう向き合って殻を破っていくか、なのである。それを象徴するように、悩める部員が「人は独りだよ」とつぶやくセリフがあり、劇中で演劇部が演じる演目も孤独と友情を描いた宮沢賢治原作の「銀河鉄道の夜」であり、本作のモチーフとなっている。とはいえ、友情が描かれないわけはなく、部員や先生との交流における絆や葛藤、刺激もある。だが、最終的には自分の中で折り合いをつけて人生の駒を進めていくものという真理を感じさせる。
熱い青春が描かれるが、仲間とヒートアップして盛り上がるタイプではなく、静かに熱い青春。仲間内で「なんか、うちら青春しちゃってる〜!」というのでなく、ひとりひとりが静かに内なる戦いをしている真摯な姿に非常に好感持てるのだ。また、主人公が演劇部員でありながら表舞台には出ない演出家であり、演劇を題材にすることに対しての本気度がうかがえていい。
しかし、ただただマジメ一辺倒で息が詰まるというのではなく、緩急のついた流れになっている。“南国ピーナッツ”こと松崎しげるなど、ももクロゆかりの人物たちが家族役で顔を出したり、小道具がメンバーのイメージカラーになっていたり、しんみりしたシーンで、静かなピアノバージョンの「行くぜっ!怪盗少女」が流れたり、モノノフ(ももクロファン)へのファンサービスもバッチリだ。(中編へと続く…)(文:入江奈々/ライター)
『幕が上がる』は2月28日より全国公開される。
入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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