原作よりヲタク臭がなく素直に感動。でも…
(…中編より続く)全国大会出場を目標に地区大会、県大会を目指す、地方都市の弱小演劇部に所属する女子高生たちの成長を描いた『幕が上がる』。劇作家であり劇団・青年団を主宰する平田オリザが2012年に発表した処女小説を、ももいろクローバーZ主演で映画化したド直球な青春映画だ。
・ももクロが本意気で勝負! 珍しいほどド直球な青春映画『幕が上がる』(前編)
・ももクロが本意気で勝負! 珍しいほどド直球な青春映画『幕が上がる』(中編)
原作は、実は一度読みかけて途絶えてしまったことがある。高度で難解なわけではない。さおりの女子高生らしい主観で語られていく形式なのだが、回想なのか現在なのか時間軸がわかりづらく取っつきにくかった。今回改めて読むと、序盤の時間軸はやはりわかりづらく、さおりは普通の女子高生らしいつもりかもしれないが、一般から見ると演劇ヲタクな女子高生でやはり取っつきにくい。最初はさおりも読者の立ち位置の一般側で、だんだんと火がついて演劇にのめりこんでいくのはいいのだが、「ロシア人は名前と呼び名があるから登場人物がわからなくなる」という“チェーホフあるある”で盛り上がったりして、読者はなんとなく白けた置いてけぼり感を食らう。しかし、映画版ではそこはまた一般受け良く、さおりや他の部員もヲタク感はなく、あくまで舞台作りに燃える高校生として描かれているので、見るほうも応援したくなる。
応援したくなる女子たちを、応援したくなるアイドルのももクロが本気の演技で見せてくるから、見ていると乗せられてついつい熱くなってしまう。モノノフはもちろんだが、逆にももクロだから所詮アイドル映画の域を出ていないでしょ、と見ないのはもったいない。素直に感動できる直球ストレートな青春映画だ。
…ただ、モノノフはもちろんと言ったものの、私のようなライトなファン程度だと、「せっかくそこそこ予算かけた本格的な主演映画をやるのなら、もっと“ももクロらしいの”が見たかったな〜」と物足りなくも思う。筋金入りのモノノフなら「本意気のももクロ、よくやった!」と彼女たちの成長を喜ぶかもしれない。でも、このあたりで基本に戻って戦隊モノとかばかばかしいのが見たかったというのが一般視聴者の本音じゃなかろうか。とりあえず、チビノフちゃんは楽しめないだろう。まあ、もはや“アイドル”から“アーティスト”にシフトしようというももクロが、今更やらないか。ヒャダインのおもしろ歌詞が良かったのに、今じゃ中島みゆきだもんなぁ。おバカ映画もそれはそれで当人たちはキャッキャッとやるだろうけど、周りの大人が異論を唱えるってものか。
そんな納得をしつつ、この本気モードも悪くないと感動に浸っていると、エンディングでいきなり方向転換。しっとりとしたエンディングテーマ「青春賦」の前に、「走れ!」が。それも、PVのようにカメラ目線で口パクで歌い、映画のNG映像もあり。極めつけは劇中劇の「銀河鉄道の夜」の舞台で舞台衣装もそのままのももクロたちが歌い、観客がサイリュウムを振る映像まで飛び出す。リアリティのかけらもないじゃないか。作品の世界観から一気に引き戻されてゲンナリ。ちょっと本気になりすぎたかなぁと作り手が弱気になって、アイドル映画風を付け足してみたのか? サイリュウムを持って映画館に来たモノノフ向けか? “ももクロらしいの”が見たいとは言ったが、ここに来てこれは要らない。最後まで潔く本気モードにしてほしかった。(文:入江奈々/ライター)
『幕が上がる』は2月28日より全国公開される。
入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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