(…前編より続く)映画『風に立つライオン』の音楽は、三池崇史監督作品では常連の遠藤浩二が手がけているが、エンディング曲であり映画自体の肝でもある「風に立つライオン」を最大限に引き立てるためなのだろう。目立つ劇伴は周到に避けられているように感じる。それだけに、エンディングで厳かに「風に立つライオン」のイントロが立ち上がってきた時の感動は大きい。
・【映画を聴く】名曲「風に立つライオン」を完全映画化! “さだまさし映画”の決定打となるか?/前編
ちなみにこの曲は、今回の映画化にあたって28年ぶりに再レコーディングされている。8分51秒の長尺だったオリジナル・ヴァージョンを短縮化してエンド・ロールに使いやすい長さにすることを目的とした再録だったにもかかわらず、結果は49人編成のフルオーケストラを使ったアレンジも手伝い、オリジナルよりさらに長い9分37秒の大曲になっている。
ラヴェルの「ボレロ」のリズムに乗った「アメイジング・グレイス」のメロディは、重厚なコーラスを伴ってより壮大さを増しているし、さだまさし本人の歌唱もオリジナルに比べてより力強く、エモーショナルに変化している。その仕上がりに感激した三池監督が、想定より長くなったにもかかわらずフルレングスでエンディングに使用することにしたのも納得できる、圧巻の歌と演奏だ。
さだまさしと映像作品との関わりは、実はとても多い。彼の楽曲に着想を得た映像作品としては、1979年の『関白宣言』や2003年の『精霊流し』などがあるし、現在でもライヴ中のトークのネタになるほど莫大な負債を残した本人監督による『長江』というドキュメンタリー大作もある。そんななかにあって本作は、さだまさしの歌の世界観を正攻法で映像化した作品として、決定打的な存在感を放っているように思える。往年のファンはもとより、「さだまさしなんて聴いたことないな」という若い世代の人にも見てほしい、滋養たっぷりの感動作だ。(文:伊藤隆剛/ライター)
『風に立つライオン』は3月14日より公開される。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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