「映画好き」と言われれば言われるほど、聞きづらくなるのが映画の一般常識。理解しているようでいて実はよく知らない。こっそり訊ねたら「そんなこと知らないの?」と呆れられそう。本コラムでは話題の映画ブルーレイを題材にしながら、いまさら聞けない映画の一般常識や用語についてお話していこう。
●今回のお題「デジタルレストア」
8月日本公開の『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』が楽しみなトム・クルーズだが、19年前に主演した快作『ザ・エージェント』が、ソニー「マスタード・イン・4K」ブルーレイで登場した。デジタルリマスターを施した高品位なブルーレイである。
・【超簡単! いまさら人に聞けない映像用語辞典 9】デジタルリマスターの正しい意味、知ってましたか? 映像と音を蘇らせる作業を解説!
『ザ・エージェント』は35mmフィルム撮影作品であり、デジタルリマスターは前回紹介の工程で行われている。35mmオリジナルネガを4Kスキャン。スキャン後のデジタルデータは、2K解像度にダウンコンバートされ、デジタルレストア工程に移るわけだ。
(保存を目的とした)修復・復元を意味するレストア=レストレーションだが、ここではスタビライズ補正(画面の揺れの除去)、フリッカー(画面の明滅)の除去、最終作業のパラ消し(パラ=傷痕/ゴミ/汚れ等の除去)を指す。
レストア作業は高速コンピューターにインストールされた専用ソフトウェアを使って自動処理されるが、特にパラ消しでは最終的に技術者の手に頼らざるを得ないことが多い。
当然4Kスキャンしたデータは高解像となり、それまで確認できなかった傷やゴミ等のディテールもより鮮明となる。そのため自動処理のパラ消しでは、傷やゴミ以外の情報を誤って認識する弊害が生まれる。たとえば映像に記録されているフィルム粒子や、小さな発光の明滅・反射に反応してしまうのだ。
こうした場合は、まず自動処理レベルを落として処理する。続いてレベルをあげて念入りに自動処理を行う。2回の処理で除去できなかった要素は、熟練オペレーターが画像の1フレームずつ、隅々まで細かく目視でチェックしながら、マニュアル(手作業)で除去することとなる。さらに前述した粒子などに反応した処理データは、これまたマニュアルでオリジナルの状態に復元していくのである。
デジタルレストア作業は複数人の技術者で行い、通常では3〜4週間ほどを要することとなる。オリジナルネガの状態が良好であった『ザ・エージェント』だが、それでも8人体制、トータルで3週間が費やされている。細密な作業であるが、それで終わりではない。これからデジタルリマスターでもっとも技術と感性を要すると言われる、グレーディング作業が待っているのだ。果たしてその内容とは?(文:堀切日出晴/オーディオ・ビジュアル評論家、オーディオ・ビジュアル・ライター)
次回は5月15日に掲載予定です。
堀切日出晴(ほりきり・ひではる)
これまでに購入した映画ディスクの総額は軽く億を超えることから、通称は「映画番長」。映画助監督という作り手としての経歴を持ち、映画作品の本質を見抜くには、AV機器を使いこなすこと、ソフトのクォリティにも目配りすることを説く。
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