(…前編より続く)
誠実さよりも計算高さが欲しい伊藤淳史の“坪田先生”
ベストセラーとなって旋風を巻き起こした書籍版「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」を映画化した『映画 ビリギャル』。
・(前編)大人目線で『映画 ビリギャル』をチェック! ギャルな有村架純に違和感ないが、描き方がピュア過ぎ!?
実は映画化の話を聞いたとき、世間で賛否両論騒がれた、主人公のギャル・さやか役を清純派と言われる有村架純が演じることより、筆者としては伊藤淳史の方に不安を覚えた。
彼が演じるのは原作者であり、塾講師である坪田先生役だ。ご本人である原作者・坪田信貴は、彼もさやかさん同様にメディア露出しており、見た目も中身もはっきり言って塾講師に共通する胡散臭さが漂っている。ただ、これは塾の講師としては必要不可欠な要素であり、だからこそ塾の講師として信用できるポイントだと個人的には思う。
人間性よりも点数で合否を決めるのが受験なら、分析して搦(から)め手でも1点でも多く得点する方法を伝授しようというのが塾講師の姿勢のはずだ。冷静沈着で計算高い老獪(ろうかい)な性質は塾講師としては評価されるべきだろう。
坪田信貴は心理学を学び、生徒の性格をパターン分けして性格によって指導方法を変えているのだとか。教え方も分析して合理的にマニュアル化するなんて、これぞカリスマ塾講! 開き直った潔さまで感じられて清々しい。
だいたい「将来の夢は塾講師です!」という子どもを見たことはない。小さいころからなりたかったという塾講師は少ないと思う。きっと何らかの挫折を経験して、塾の講師になった人は多いんじゃないだろうか。キラキラした目で子ども性善説を唱え、「夢は必ず叶う!!」と言い切るような小学校の先生よりも、挫折を経験して合理的に塾講師になった人物のほうが、個人的には信用できる。
話が長くなったが、伊藤淳史は純粋な小学校の先生こそピッタリであるだろうが、塾講師の大きなポイントであろう計算高い胡散臭さは微塵もない。あまりにも誠実なイメージすぎるのだ。予感は的中して、伊藤淳史演じる塾講師はピュアでご立派で良い人な先生像に傾き過ぎており、これが本作全体に繋がる大きなマイナスポイントだと感じた。(後編へ続く…)(文:入江奈々/ライター)
『ビリギャル』は5月1日より全国公開される。
・(後編)大人目線で『映画 ビリギャル』をチェック! ギャルな有村架純に違和感ないが、描き方がピュア過ぎ!?
入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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