(…前編より続く)改めて言うまでもなく、アカペラというのは音楽様式のひとつで、複数人による和声表現を基本に、近年はボイスパーカッションやヒューマン・ビートボックスといったリズム表現を加えたものが主流になっている。ゴスペラーズやSMOOTH ACEといったベテランから、バラエティ番組への出演をきっかけにデビューしたRAG FAIRやINSPiまで、日本にもさまざまなアカペラグループがいるが、さらに辿れば鈴木雅之らの在籍したシャネルズ/ラッツ&スターや、一人多重録音をお家芸とする山下達郎など、ドゥーワップからの影響が色濃い先達もいる。
・【映画を聴く】バラバラの個性が奏でる完璧なハーモニーに耳目が釘付け! 必見のガールズ・ムービー『ピッチ・パーフェクト』/前編
『ピッチ・パーフェクト』が大ヒットしたことからもわかるように、アメリカやヨーロッパでは近年、アカペラ・ブームが過熱しており、その音楽表現も驚くほど多様化しているようだ。ハーモニーの美しさやリズム・アレンジの斬新さは当然のこと、振り付けやカップス(カップを使ってさまざまなリズムを刻む手法)といったアイディアも要求されるようになっているという。
当コラムでも紹介した『イントゥ・ザ・ウッズ』や『ラスト5イヤーズ』で素晴らしい歌声を披露し、いまや“歌える若手女優”の筆頭に挙げられるアナ・ケンドリックだが、ブロードウェイ出身の彼女が一般映画でその歌唱力を注目されるようになったのは、実は本作がきっかけだ。劇中で披露したカップスの妙技も手伝って大きな評判を呼び、動画サイトにも彼女の扮するベッカを真似た素人のパフォーマンスが無数に投稿されている。
そんなアナを中心に、キャスト全員が“アカペラ・ブートキャンプ”と呼ばれる猛練習を積み、リアルなハーモニーを実現させているところが音楽映画としての本作の最大の魅力だ。特にファット・エイミー役のレベル・ウィルソンは、アナと共にベラーズの二枚看板として体格通りのソウルフルな歌声を聴かせる。各キャストの声域に合わせてアカペラ・アレンジされたブルーノ・マーズやマイケル・ジャクソン、マドンナらの有名曲の使用にも、洋楽ファンならいちいちグッとくるはずだ。
本作の登場人物たちの音楽に対する取り組みは、公開前から肯定派と否定派に分かれてSNS上で激論が繰り広げられた『セッション』に見られるほどストイックなものではない。音楽を神聖視するのではなく、より生活に寄り添ったものとしてナチュラルに捉えている。「音楽は楽しいもの」という当たり前のことに気づかせてくれる、とにかく気持ちのいい作品だ。日本でも年内に公開されるという『ピッチ・パーフェクト2』に、いまから期待が膨らんでしまう。(文:伊藤隆剛/ライター)
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