【週末シネマ】メイクで時代を創った早世のアーティスト、その光と影に迫るドキュメンタリー
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『メイクアップ・アーティスト:ケヴィン・オークイン・ストーリー』
【週末シネマ】“スーパーモデル”という言葉が生まれて、それまでマネキン的要素が強かったモデルの個々のキャラクターにスポットが当たり、時代の寵児としてキラキラ輝いていた90年代。彼女たちとは違う立ち位置でスーパースターの地位を確立した、もう1人の時代の寵児がいた。バックステージで彼女たちの美をサポートする、ケヴィン・オークインというメイクアップ・アーティストである。本作は、彼のドキュメンタリー作品だ。
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彼の名は知らなくても、リンダ・エヴァンジェリスタ、ナオミ・キャンベル、ケイト・モス、シンディー・クロフォード、クリスティ・ターリントン、イザベラ・ロッセリーニといったモデル達の名をご存知の方は多いだろう。ケヴィンは、そんな錚々たる顔ぶれのトップモデル達から絶大な信頼を得ていたメイクアップ・アーティストなのである。
ケイト・モスを細眉にしてモード界にセンセーションを巻き起こす
当時掛け出しのメイクアップ・アーティストだった筆者にとって、彼はまさにスター的な存在だった。彼は、数年前から再注目されている「コントゥアリング」を重視したアーティストとして知られている。陰影を強調することで顔を立体的に見せるテクニックだ。映画の中でも、ケヴィンは常に「ベースをのっぺり塗るな」と言っていたエピソードが明かされる。
さらに彼は、当時時代遅れとなっていた過去の流行に再び息吹を吹き込み、メイクのリバイバル革命を起こしたことでも知られている。「細眉」と「つけまつ毛」の再流行がそれだ。彼は、細眉メイクのために当時のトップモデル、ケイト・モスやシンディー・クロフォードの眉を独断により現場で全部抜いてしまったという。業界を知る者からしたらありえないぶっ飛びエピソードだ。撮影後に事務所からクレームが入ったというが、眉を抜いたことで作り上げた30年代のようなクラシカルで芸術性の高い写真が雑誌の紙面を飾ると、モード界にセンセーションを巻き起こした。そして、一気に世間の細眉ブームが加速していく。そんな風に、ケヴィンはモード界の流れを一気に変えるようなマジックをいくつも魅せてくれたアーティストだったのだ。
野球少年にはならず、美女のポスターを眺めていた少年時代
実はケヴィンは、2002年にわずか40歳でこの世を去っている。『メイクアップ・アーティスト:ケヴィン・オークイン・ストーリー』は、彼へのオマージュ作品なのだ。ケヴィンは、シェールやジャネット・ジャクソンといったアーティストからの指名も多く、アルバムジャケットやミュージックビデオなどの撮影も多数手がけている。彼の名は知らなくとも、キャリアを一瞥しただけで彼がどれだけ売れっ子だったかということがわかっていただけるのではないだろうか。
小さい頃から美しい女性に魅了され、彼にとってのミューズ達のポスターを部屋中に貼っていたというケヴィン。野球少年に育ってほしいという父の願いとは裏腹に、部屋に閉じこもって女性のデッサン画を描くのに夢中になった。幼少期からすでに、美のクリエイターとしての才能の萌芽が見られたのである。両親の愛情をたっぷり受けて多くの兄弟たちとともに育ったが、実は彼は養子であった。そんな自分の出自とともに、「ナヨナヨしている」「オカマ」などとからかわれ、長年いじめられてきた過去がケヴィン自らの口から語られる。そして彼は、ゲイであることを隠さなかった。視聴者はそんな断片的な告白を通して、様々な要素が寄せ木細工のように寄せ集まり、彼の心に根深いコンプレックスを植え付けていったことを知る。
モデルや女優、元恋人、友人らの証言をもとにケヴィンの生涯を辿る
本人の告白や映像を多分に交えながら、前出のスーパーモデル達、彼の家族や友人知人、かつての恋人や配偶者(いずれも男性)が語るケヴィンのエピソードをもとに、かつての時代の寵児の短すぎる生涯にスポットを当てていく。彼を知ろうが知るまいが、メイクに興味があろうがなかろうが、類まれな美的感覚を持った男性の軌跡を辿るという点で、どなたでも楽しめる作品ではと思う。当時の映像により90年代特有のキラキラした空気感も味わえるので、そちらもお楽しみに。(文:羽野ハノン/ライター)
『メイクアップ・アーティスト:ケヴィン・オークイン・ストーリー』は、2022年10月7日より全国順次公開。
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