『ストレイヤーズ・クロニクル』の脚本家・喜安浩平氏に青春映画の真髄を聞く
●役者・声優・劇団主宰、さまざまな経歴を経て脚本家デビュー
これからの邦画界の主力となって更なるパワーを見せつけるであろう注目したい人物がいる、それが喜安浩平氏だ。朝井リョウのデビュー作を原作とし、日本にも脈々とあったスクールカーストを具現化してエポックメイキングな青春映画となった『桐島、部活やめるってよ』の脚本を手がけ、第36回日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞し、平田オリザ原作・ももいろクローバーZ主演で演劇に懸ける青春を描いた『幕が上がる』の脚本を担当し、その手腕を高く評価されている。
しかし、彼の芸能のスタートは脚本家としてではない。現に筆者にとって喜安氏は人気劇団・ナイロン100℃の舞台役者として長年馴染みがあった。彼自身、演劇ユニット・ブルドッキングヘッドロックの主宰者でもあり、舞台はもちろんテレビや映画でも俳優として活躍中だ。さらにそれだけでなく、『はじめの一歩』の幕之内一歩役のほか、『蒼穹のファフナー』の皆城総士役や『テニスの王子様』の海堂薫役を演じる人気声優でもある。
そんなさまざまな顔を持ち、すでに多方面で輝かしいキャリアを積んできた喜安氏が映画脚本を手掛けるようになった経緯から話を聞いた。
「『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八監督が、ブルドッキングヘッドロックの舞台を観てくださってたんです。「役に立たないオマエ」という、高校の美術部員を描いた作品なんですけど、その作品にどこか『桐島〜』に通じるものを感じられたのかもしれません。それで、映画化の話が上がった際に、僕に声をかけてくれたんです。最初は、映画のことなんてなにもわからないんですが、とも思いましたけど、僕の描いた高校生を面白いと思ったから、高校生の映画を撮るために僕を呼ぶというのが、大変率直で、やるべきこともはっきりしているなと思って」、脚本の依頼を受けたという。吉田監督とは、監督が演出したCMにキャストとして喜安氏が出演したのが接点だ。ちなみにそのときの吉田監督の印象は「手に持っているペンの微妙な位置にもこだわる細かい監督(笑)。ふだんは面白くて優しい人ですけどね」。
そうして映画化された『桐島〜』は新たなる青春映画の金字塔となった。そして今回、喜安氏が脚本化したのは『桐島〜』とはまったく違ったテイストの、本多孝好原作の新感覚アクション巨編小説「ストレイヤーズ・クロニクル」だ。やはり『桐島〜』の縁で同作プロデューサーの佐藤貴博氏から直接、声がかかったのだとか。「「ストレイヤーズ〜」はアクション盛りだくさんな作品なんですが、芯の部分は“若者たちの青春群像劇”として組み上げていきたいということでした」。
「ストレイヤーズ〜」は特殊能力を具えた若者たちの2つのチーム、未来に希望を見出そうとする昴たちと未来に絶望する破滅的な学たちによる壮絶な闘いを描いている。「僕が参加した時点で、すでにプロット(ストーリーのあらすじ)がありました。僕の仕事は、それをどう肉付けしてリアルなものにするか、ということだと理解して、作業に入りました。ただ、僕が書くとどうしてもダイアローグ(会話)が増えるんです。会話が走り始めるとどんどん長くなってしまう(笑)。僕が参加したことでプロットに影響が出た部分もあるかもしれません」。
確かに原作は裏社会や政治的な要素も多いが、映画版ではその部分はぎゅっとコンパクトにまとめられている。「『若者たちの群像劇を立ち上げて欲しい』と明確なリクエストをもらっていたので、当然そこを意識して脚本化しました。もちろん全体の骨組みを監督の瀬々さんと共有しながらですが。僕の中で学たちへの興味が強くなっていって、カフェでしゃべっているシーンなどに、物語には無くてもいい会話を盛り込んでしまっていたんですが、そのうちに瀬々監督の中でもイメージが膨らんでいって。その時点で原作とは切り離して、登場人物のディティールを掘り下げていきました」。(中編へ続く…)(文:入江奈々/ライター)
『ストレイヤーズ・クロニクル』は6月27日より全国公開される。
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