(…前編より続く)
●物語よりも人物のディティールに興味がわき、どんどん膨らんでいく
新たなる青春映画の金字塔となった『桐島、部活やめるってよ』の脚本を手がけて第36回日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞し、ももいろクローバーZ主演で演劇に懸ける青春を描いた『幕が上がる』の脚本も高く評価された喜安浩平氏。今回、喜安氏は本多孝好原作の新感覚アクション巨編小説「ストレイヤーズ・クロニクル」の映画化の脚本を担当し、青春群像劇の要素を注ぎ込んでいる。その才能を解き明かすべく、喜安氏に話を聞いた。
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喜安氏は脚本のダイアローグ(会話)が好きでどんどん書きふくらんでいくが、脚本の前段階であるプロット(あらすじ)を書くのは苦手なのだとか。
「僕の場合、演劇の方では、稽古場で役者がある場面を演じているのを見てインスピレーションを受けて、その後の場面の脚本を書き進めていく、という作り方をしていて、10年以上その方法しか知りませんでした」と彼は言う。演劇の場合は、まさに『幕が上がる』で語られる、「答えはすべて稽古場にある」というわけだ。
喜安氏は続ける、「だからプロットとして1から10まできっちり骨組みして、それにのっとって書いていこうとすると体が戸惑うんですよ。その代わりに、例えば、登場人物が数人ファミレスにいたら、とだけ設定して、いきなり会話や行動を書き始めてしまった方が早い場合もある」。
喜安氏は「大それたことを言うつもりはありませんが」と謙遜しつつ、脳内を漫画家になぞらえる。連載漫画を描いている漫画家が構想を練っているときに、頭の中でキャラクターが勝手に動き始めるというが、まさに喜安氏もそんな現象が起きるのだとか。そして、どんどん妄想がふくらんで、どんどんシーンが増えていき、どの映画の場合でも脚本段階でいっぱいカットされる憂き目に遭っていると苦笑する。
ストーリーテラーとして物語を動かしていく面白さよりも、登場人物に寄り添い人間を描写することに喜安氏は深い興味を抱いているそう。「乱暴な言い方をすると、ストーリーは登場人物が動いた結果だと思っています。人がどう動くか、その時その時の過程が重要で、その過程を辿っていけば、その人が次にどう動くか、というのはもう引力に引きずられるように決まってくるような気がします。物語の結末は僕にとっても観客にとっても大切なものですけど、結末ありきのつじつま合わせにはしたくないですよね」
人物が表面的なだけでなく内面もしっかりと描かれているからこそ、彼らがもたらす行動という結果がストンと見る側に落ちてくるのかもしれない。喜安氏が脚本を書くときの心得といったものはあるのだろうか。
「今のところ、映画の脚本は原作のあるものしか書いていないのですが、最初に原作を読んだ時の印象を大切にして、最後までその感覚に従うようにしています。演劇の場合は、稽古期間の中で、役者と対話して、意図をすり合わせていくことで、脚本の隙を埋めていくことができますが、映画の場合はリハーサルの場に脚本家がいられることはあまりないので、役者や監督たちと作品に込めたいなにかを共有するためには、脚本に書いたすべての言葉に責任を持って、誰が読んでも意図がわかるものを用意しておかなくてはいけないのだろう、と思っています。でも読み手を想像し続けるのも難しい。そこでよりどころにするのが、最初に原作を読んだときの直感です」。
原作を脚本化するうえで苦労する点は、なんといっても時間の制約だ。「ストレイヤーズ〜」にしても3巻にわたるアクション巨編を2時間ほどの映画にしなくてはいけない。喜安氏は言う、「捨てる作業をしないで済む脚本家はいないんじゃないでしょうか。でも、下手な捨て方をしちゃうと、絵のデッサンのように、何かが狂ったまんまで最後までぎこちなく難しい。何を捨てて、何を残すか、その場合も、最初に読んだ第一印象が重要になってきます」。
そうして脚本化した『ストレイヤーズ〜』の完成した映画版については、言葉には書かれていない部分に驚かされたという。
「アクションは、僕も拙いながら想像はしていましたが、全然及びませんでした。あと、アクション以外に、瀬々監督が醸す若者たちの青さにも、驚きました。僕はト書き(脚本でセリフではない説明の部分)にそんなに“走る”とは書いてないハズなんですけど、なぜか走っているシーンが多いんです。その、走る若者たちの姿に、言葉では表せない独特の青さを感じました」。
若者たちを演じるキャストについても、原作も脚本もどちらの要素もバランスよく持っていて、非常に満足しているという。(…後編に続く…)(文:入江奈々/ライター)
・【映画作りの舞台裏】後編/『桐島』『幕が上がる』を手がけ「青春映画の名手」と謳われる気鋭脚本家に注目!
『ストレイヤーズ・クロニクル』は6月27日より全国公開される。
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