「映画好き」と言われれば言われるほど、聞きづらくなるのが映画の一般常識。理解しているようでいて実はよく知らない。こっそり訊ねたら「そんなこと知らないの?」と呆れられそう。本コラムでは話題の映画ブルーレイを題材にしながら、いまさら聞けない映画の一般常識や用語についてお話していこう。
●今回のお題「3D変換」
●オススメBlue-ray『ジュラシック・パーク 3D』
3D変換を簡単に説明すると、2D映像を左右の視差(ひとつの対象物を見た時の右目と左目の差違)を持つ映像に編集し、深度(奥行き)を加えて立体映像化するものだ。異なる方法論やプロセスを有するさまざまな3D変換技術があるが、エンドロールに「3D CONVERSION」とある作品は全編(もしくは大半の場面)を3D変換した映画である。いまでは実写3D映画の7割以上が変換作品となっている。
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この1年間を振り返っても、コンピュータの性能(処理速度)の向上により、3D変換の費用は半値近くに抑えられている。しかも変換技術は劇的に向上しているのだ。
多くの変換技術用語なかでも重要なのは、ROTO(ロト)とDEPTH(デプス)。ROTOは2D画像内のあらゆる被写体の輪郭取り(トレース)作業のこと。DEPTHは、ROTOによる輪郭を基に白黒映像で3D空間の設計図を作り(黒=奥、白=手前)、細かな立体感をつける作業。このDEPTHを基に右目と左目の画像をレンダリング(コンピュータによる画像生成)し、試写室で立体感を確認していくのである。
「3Dで作りたかったが、当時の技術では実現できなかった」とスピルバーグが語った『ジュラシック・パーク』。その3Dブルーレイが登場した。3D版『タイタニック』の完成度を目の当たりにして、3D化の思いが再熱したというが、その完成度は2D版よりはるかに高い。
オリジナル35mmネガから4Kスキャン/4Kワークフロー。3D変換担当は大手ステレオD社(『タイタニック』『GODZILLA/ゴジラ』)。全フレームのステレオ台本とワークブックを作り、膨大な量のROTO作業に取りかかる。DEPTH作業では数か所の変更がなされており、的確な立体感を得るためILMが3つのVFXを新規制作。さらにスピルバーグは雨、霧、煙等の加工も指示している。
いずれもオリジナルを損なわない加工となっているが、T-REX登場シーン等で確認できるはずだ。最終の合成作業が完了するまでに9ヵ月を費やし、L.A.とインドのスタジオで従事したスタッフ数は1200名を超える。それでも予定スケジュールと予算を下回ったという。
一時期ほど3D作品数は減少したが、大作・話題作では3Dは欠かせない。次回はホームシアターにおける、正しい3D鑑賞の仕方についてのお話。(文:堀切日出晴/オーディオ・ビジュアル評論家、オーディオ・ビジュアル・ライター)
次回は8月3日に掲載予定です。
堀切日出晴(ほりきり・ひではる)
これまでに購入した映画ディスクの総額は軽く億を超えることから、通称は「映画番長」。映画助監督という作り手としての経歴を持ち、映画作品の本質を見抜くには、AV機器を使いこなすこと、ソフトのクォリティにも目配りすることを説く。
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