(…前編より続く)
●カッコよさより共感を優先したのか、凡人エレン
実写映画化が発表されたときから、話題沸騰となった諫山創による原作コミックを映画化した『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』。原作コミックは全世界累計発行部数5000万部突破という驚異的な数字を叩き出し、アニメ、ラノベ、ゲームなどさまざまなメディアミックス展開され社会現象となっている。
・【元ネタ比較】(前編)炎上商法狙ってる? 原作を大きく外した 『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』
ファンの思い入れは尋常じゃないほど強く、注目されまくった「進撃の巨人」の実写映画化、その内容はいかに?と蓋を開けてみると・・・。え?・・・え〜〜〜、なんじゃこりゃ。
リヴァイが、シキシマが、と論じる次元の話じゃなく、この映像は・・・。なんというか、古くさくて、懐かしささえ覚えるのだが。カメラ自体をわざとらしくグラグラと揺らすことによって巨人によって地面が振動しているかのように表現し、ゴロゴロと壁から石が崩れ落ちてくるなか驚愕する出演者たちの顔を捉える・・・うーん、昔の日本映画でよくみた感じ、ゴジラでも出てくるのかと思った。はっ!そうか、樋口真嗣監督は『ガメラ 大怪獣空中決戦』の平成ガメラシリーズの特技監督じゃないか!
『告白』の中島哲也監督だと人間描写にはこだわってもCGに頼りきることになるであろうVFXとアクション描写においては不安だったが、その点、樋口真嗣監督は信頼して任せそうだと思っていた。だが、そうか、怪獣好きが撮るとこうなるのか・・・。立体機動装置によって空中を自在に跳び回るアクションも、人物と背景に違和感があって、なんだか特撮創世紀の特撮みたい。
肝心の巨人はというと、実際にパペットとして製作された巨人と、特殊メイクした生身の人間が演じる巨人をベースにCG加工もしたらしいが、“まさにそこにいる”というリアル感がゼロ。人間が巨大な巨人の手につかまれたときも、とらえられた人間が必死でジタバタともがいても巨人の手はビクともしない。そりゃあ巨人の力がとてつもなく鴻大(こうだい)だと言いたいのかもしれないが、絵のようにビクともしないと、絵にしか見えないのだ。エンパイア・ステート・ビルに登る初代キングコングを思い出して遠い目をしてしまった。巨人がリアルでないと、“世界は、残酷なのだから”な悲壮な世界観もすべて台無し、滑稽になるだけじゃないか。いかん、リヴァイだ、シキシマだと論じる気力を本当に失ってしまった。
まぁ、気を取り直して目を向けると、キャラクターについてもリヴァイとシキシマを論じる前に、主人公の少年・エレンと強い絆で結ばれてきた幼馴染の少女・ミカサの人物像が原作と大きく違うのだ。エレンの行動原理として、目の前で母親が巨人に食い殺されたことが大きくあるが、そのエピソードは削除され、映画版のエレンは壁に囲われた閉塞感を打破して新たなる世界に飛び出したいという、いわゆる普遍的な若者像として描かれている。なんじゃそりゃ。確かに原作のエレンも壁の外に夢を馳せる若者要素はあるものの、それだけで“駆逐してやる!”というほど強い意志と殺意が持続するわけはない。その証拠に映画版のエレンは原作よりも腰抜けで、巨人に出会うと怯えて震える始末。
共感を得るためなのだろうが、そんなエレン、要らない。そんなエレンじゃないから、ここまで原作コミックは人気が爆発したのではないのか?(後編へ続く…)(文:入江奈々/ライター)
・【元ネタ比較】(後編)炎上商法狙ってる? 原作を大きく外した 『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』
『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』は8月1日より全国公開される。
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