●残虐度が増した捕食シーンには注目
原作コミックは全世界累計発行部数5000万部突破という驚異的な数字を叩き出し、アニメ、ラノベ、ゲームなどさまざまなメディアミックス展開され社会現象となった諫山創原作によるコミックを映画化した『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』。人類を捕食する謎に包まれた巨人に向かって、兵士となった少年少女たちが決死の覚悟で立ち向かっていく姿が描かれる。
・【元ネタ比較】(前編)炎上商法狙ってる? 原作を大きく外した 『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』
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主人公の少年・エレンには、目の前で母親が巨人に食い殺されたという原作にあるエピソードはなく、巨人たちを“駆逐してやる!”というほど強い意志と殺意を抱いているわけでもない。その証拠に映画版のエレンは原作よりも腰抜けで、巨人に出会うと怯えて震える始末だ。
テレビドラマシリーズ『デスノート』もそうだが、製作側がビビっているのか、視聴者に媚びを売っているのか、特殊な才能を持つ登場人物を凡人にすれば一般人から共感を得られてオーディエンスを獲得できるはず、と安易に考えすぎてやしないか? 夜神月は天才だから殺人を繰り返せるし、Lとも渡り合えるというのに、おバカでヘラヘラした夜神月なんて要らない。といっても、実は「DEATH NOTE」も「進撃の巨人」も個人的には好きではないのだが、非凡な主人公には異端者としての魅力があることはわかる。
そして、エレンだけじゃなく、ミカサも原作とはずいぶん性質も立ち位置も違うのだ。そもそもエレンとミカサを固く強く結ぶ絆となっている、罪深いネガティブな共有の過去であるあの事件そのもののエピソードもないのだ。だから、エレンとミカサはほのかな恋心をにおわせる甘酸っぱい、ただの幼馴染という間柄。なんじゃそりゃ。そんなわけだから、なにがあってもミカサは絶対的にエレンを守り抜く守護天使というポジションでもない。ぶっちゃけ、2人はかなり序盤で生き別れてしまうし。シキシマとミカサはなにやら怪しい関係だし。こうなってくると、もうどうでもいいや。
原作者の諫山創自身がエレンを原作の意志の強い人物にしてほしくない、原作通りのセリフをなるべく使わないでほしいと要望があったのだとか。諫山自身、エレンに共感できないし、好感ももてなかったのだそうだ。読者や編集者に求められるまま、ストイックでスタイリッシュな強い人物へと主人公を作り上げていったが、できあがってみれば「ぼく、こんなキツくて怖い男、好きじゃない」と思ったんだろうか。
あぁ、そうだ、忘れてた。リヴァイとシキシマだが、リヴァイという旧約聖書にも登場する名前は日本人として違和感あるから人物ごとカットして、その代わりにシキシマという同じく冷徹で切れのある男を映画版のオリジナル・キャラクターとして登場させるってことで、オッケー!とでもなったんだろう。というのも、映画版で共同脚本を手がけた、Z級映画をこよなく愛する映画評論家の町山智浩曰く、彼がまず原作コミック4巻までぐらいの内容を90分ほどのシナリオにまとめて映画実写版の叩き台を作り上げたそうだが、名前にはやたらとこだわったらしい。エレンやアルミン、ジャン、サシャという名前は昨今のキラキラネームを考えれば、日本人でもギリギリオッケーだが、リヴァイやエルヴィン、ベルトルトやライナーはいかにもなドイツ名だから日本人というわけにも、いや『テルマエロマエ』のように開き直ってやるか、いそれではコメディになる、と議論がなされたらしい。
そこ!? こだわるとこ、そこなの!? そのわりにはミカサだけは唯一ヨーロピアン・ネームでなく、原作では母親が東洋系でミカサ自身も東洋系が強い見た目だが、キャスティングされたのは、いかにもハーフな外見の水原希子ってどうなのよ。
キャスティング全般も原作のイメージにあっているのかとファンは一喜一憂していたが、キャラクターの中身自体が原作とは大きく離れているので、キャスティングのイメージもどうでもよくなってしまった。テンション高くてちょっとヤバいハンジ役の石原さとみはコミカルなほどハジケた演技でがんばっていることだけ触れておこう。
ただ、名前を日本人名こだわったのは樋口監督が軍艦島で撮影したいというコンセプトがあり、それなら舞台も日本だからやっぱり日本人名でいこうとなったそうだが、それにしては町並みは原作のようにヨーロッパ風だし、音楽はスコットランド音楽のようなヨーロッパ風の曲調のものが流れてる。じゃあ、中世ヨーロッパ風なのかというと、移動手段に馬は使われず軍用トラックが走っている。
キャラクターからして原作に忠実ではないのだからして、人間ドラマとしても展開する調査兵団や憲兵団の立場も薄く、それぞれの思わくがありながら遂行しなくてはならないミッション、そんななかで協力してこそギリギリで成り立つ作戦と戦闘術も原作のように吸引力を持たない。ストーリーはあっけなく進んでいき、この前編は98分、後編にいたっては87分の予定なのだとか。それだったら、前後編に分けなくても1本にまとめられたんじゃあ・・・、と思ってしまう。こうなると、全然だめなんじゃないかと思っていた、巨人が東京に現れるという設定の企画フィルムを撮ったという中島哲也監督版が見たくなってしまった。
そうだな、今回の映画版で買いたいところは巨人たちが人間を食らうシーンの残酷描写だろうか。人間の体は半分以上が水分なんだなぁと改めて思い知らせてくれるほど、グッチョグッチョなのだ。それを行う巨人にリアリティーがなければスプラッタの迫力も半減なのではということはさておき、このグッチョグッチョの残酷描写にもかかわらずプロデューサーが映倫に掛け合ってPG12にとどめたのだとか。スプラッタだけでなく、人間を食らう巨人の表情にも注目してほしい。原作では、食物としてでなく、殺戮の快楽のために人間を捕食するといわれてるわりには無表情で無気力に見える巨人だが、映画版の巨人たちのイキイキしてること。嬉々として捕食している様子は快楽のためという提議が納得できるし、無邪気な姿が残酷性を増幅させている。この巨人の捕食シーンは映画版への改変ポイントではあるだろう。(文:入江奈々/ライター)
『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』は8月1日より全国公開される。
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