『ミッション・インポッシブル/ローグ・ネイション』
(…前編より続く)スケール大な屋外でのアクションに対して、歴史あるウィーンの国立歌劇場で、オペラ上演中に繰り広げられる攻防の緊張感も見逃せない。フィギュアスケートの荒川静香選手がトリノ・オリンピックで金メダル受賞をしたプログラムの使用曲「誰も寝てはならぬ」で知られるオペラ「トゥーランドット」が上演されている。北京を舞台にしたこの作品のチョイスは、映画に出資している中国企業2社への心配り的な意味もありそうだが、ドラマティックな曲調の盛り上がりと舞台裏で起きているサスペンスが同調し、素晴らしい効果を生んでいる。
・【週末シネマ】(前編)トム・クルーズが今回も体を張って大活躍。裏話まで完ぺきなエンタメ作の鑑
クリストファー・マッカリー監督は、ブライアン・シンガー監督の『ユージュアル・サスペクツ』の脚本を手がけ、シンガー監督がトムと組んだ『ワルキューレ』(脚本・製作)で出会って以来、『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(クレジットなしだが、脚本を共同執筆)、『アウトロー』(監督・共同脚本)、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(共同脚本)とトムの作品に深く関わり続けている。脚本を兼ねた『誘拐犯』で2000年にデビューしたものの、その後は脚本・製作の仕事に徹していた彼を映画監督として本格的に開花させたのは、ほかならぬトムであり、来日記者会見での口ぶりからすると、2人のコラボレーションは今後も続きそうだ。
マッカリー監督は、シリーズを通して主人公がやってのけるアクロバット的な行動について、「彼(イーサン)はできれば違うやり方をしたいと思っているんだ」と説明した。やりたくてやっているわけじゃないイーサン・ハント。だが、それを演じるトム・クルーズは明らかにやりたがっているという矛盾が面白い。危険なスタントについて「怖くないんじゃない。怖くても気にしないんだ」とトムは言う。
飛行機にしがみつくシーンはマッカリー監督が冗談で提案したアイディアにトムが乗ったことが発端だという。しかし、名は体を表すというべきか、あり得ない任務を実現させるのがシリーズのテーマなのだ。軽い気持ちのジョークを真に受けるプロデューサー兼主演俳優、その心意気を全力でバックアップする監督とスタッフ。こうしたバック・ストーリーも含めて完ぺきなエンターテインメント。娯楽作はかくあるべし、という鑑のような快作だ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ミッション・インポッシブル/ローグ・ネイション』は8月7日より公開中。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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