「映画好き」と言われれば言われるほど、聞きづらくなるのが映像技術の一般常識。理解しているようでいて実はよく知らない。こっそり訊ねたら「そんなこと知らないの?」と呆れられそう。本コラムでは話題の映画ブルーレイを題材にしながら、いまさら聞けない映画の一般常識や用語についてお話していこう。
●今回のお題「ポケモンショック」
●オススメBlue-ray『トランスフォーマー/ロストエイジ』
1997年12月。テレビアニメ「ポケットモンスター」を鑑賞中の多数の児童と大人が、体調不良を引き起こして病院に搬送されるという事件が起きた。数フレーム単位での激しい光のフリッカー(明滅)が強度の刺激効果を生み、光過敏性発作を引き起こしたのである。当初は光刺激による癲癇(てんかん)の一種として結論づけられたが、実はさまざまな要因が重なって起きたものであった。
・【超簡単! いまさら人に聞けない映像用語辞典 17】小さな子どもの3D鑑賞には注意が必要、ディズニーは子どもの視覚機能にも配慮!
光過敏性発作の症例は映画館でも古くから報告されており、なにも家庭だけの話ではない。但し光をスクリーンの反射光を見る映画より、自発光する光を見るテレビでの症例が圧倒的に多い。暗い室内でテレビの明滅画面を見つめるということは、暗闇で強い発光体の明滅を直接見ていることに等しくなる。
人間の脳波に異常をきたす光の明滅回数は、1秒12回〜23回という統計があるが、ポケモンは危険明滅回数の範囲にあった。さらに赤色の使用。色の鮮やかさ示す彩度の可視範囲で、人の視覚はもっとも赤に敏感であり、赤が脳を興奮させて発作の誘発する場合が多い。日本のアニメ番組ではセル画の枚数を減すために赤と青のフィルターをセル画間に交互に入れる技法が通例だが、これが仇となり(赤が)危険明滅回数に達していたのである。
これを機にフリッカー・ガイドラインも強化され、家庭での鑑賞では「テレビから離れて、部屋を明るくして鑑賞してください」といった注意が促されるようになった。とりわけ子どもにとって当然の配慮であろう。
もしも少しでも映像の集中度を高めたいというなら、
(1)「画面の輝度/コントラストを落とす(明るさ/ブライトでなない)」
(2)「画面輝度と等しくなるように照明の明るさを落とす」
(3)「可能ならテレビ背面(壁面)に間接照明を当てる」
という工夫をしてみよう。これにより瞳孔が開き切らず、テレビからの光感も弱まり、集中した映画鑑賞が約束されるはずだ。
「私の作品ではフリッカーを視覚的な効果として使うケースが多いが、以前から必要以上の演出使用は避けている」と語るのはスティーヴン・スピルバーグ。製作者として監督への指示も徹底しており、『トランスフォーマー/ロストエイジ』のBD化ではフリッカー輝度を抑えた微調整を行っているという。(文:堀切日出晴/オーディオ・ビジュアル評論家、オーディオ・ビジュアル・ライター)
次回は9月25日に掲載予定です。
堀切日出晴(ほりきり・ひではる)
これまでに購入した映画ディスクの総額は軽く億を超えることから、通称は「映画番長」。映画助監督という作り手としての経歴を持ち、映画作品の本質を見抜くには、AV機器を使いこなすこと、ソフトのクォリティにも目配りすることを説く。
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