アル・パチーノがキャリア史上初めてミュージシャンを演じる『Dearダニー 君へのうた』が、今週末から公開される。監督は、脚本家として『カーズ』や『塔の上のラプンツェル』『ラストべガス』といった作品を手がけてきたダン・フォーゲルマン。今作が初監督作品となる。
アル・パチーノが演じるのは、ダニー・コリンズというベテラン・ミュージシャン。「ヘイ・ベイビードール」という30年以上前に飛ばした大ヒット曲を歌ってさえいれば、現在もコンサートで莫大な収益を得ることができるのだが、内心はどこか空しい。そんな彼のもとに、43年前に書かれたある手紙が突然届けられる。それはダニーの崇拝するジョン・レノンが、彼を励ますために書いたものだった。ジョンの言葉をきっかけに自分を見つめ直したダニーは、不摂生な生活を改め、30年ぶりの新曲を書くことを決意する。
この導入部だけで音楽好きなら興味を持たずにはいられないが、物語はミュージシャンとしてのダニーと並行して父親としてのダニーも描いている。顔も見たことがない息子、トムとその家族に会いに行き、はじめは拒絶されながらも次第にその距離を縮めていく。
そんな物語にジョン・レノンの楽曲群ーー「ビューティフル・ボーイ」「ラヴ」「真夜中を突っ走れ」「コールド・ターキー」などが色を添える。ビートルズ時代はもちろん、ソロ時代の楽曲も映画での使用許可のハードルが高いと言われるジョン・レノンだが、物語の内容を気に入ったレノン財団が名曲の数々の使用を許諾。“43年前の手紙の差出人”というだけでなく、現在のダニーの背中を歌声で後押しする役割を担っている。
ちなみにこの物語は、“年月を超えてジョンの手紙を受け取る”という部分のみ、実話に基づいている。手紙を受け取ったのは、イギリスのフォーク系シンガー・ソングライター、スティーヴ・ティルストン。彼は1971年のデビュー以降、着実にキャリアを重ねている人物だが、デビュー当初にある雑誌のインタビューで「富と名声を手に入れたら、作る歌に影響が出ると思うか」との問いに「大変な悪影響が出るだろう」と返答。その雑誌を読んだジョンが「富を手に入れたからといって、物の見方は変わらない」という内容の手紙を書き、それは「さて、君はどう思う?」と結ばれていたという。
手紙は何らかの理由で本人には届かず、2005年にアメリカのコレクターからの連絡で初めてその存在が明らかになったそうだが、フォーゲルマン監督はそのエピソードにヒントを得て本作の脚本に着手。“もしも彼が富と名声を手に入れながら、心がとても不幸になっていたら?”という仮定から、物語を作り上げていったという。(後編へ続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)
・【映画を聴く】(後編)アル・パチーノの枯れた歌声が新鮮! 『Dearダニー 君へのうた』
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・『Dearダニー 君へのうた』アル・パチーノ インタビュー
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