生と死に深く関わる仕事を丁寧に描く『ボクは坊さん。』地味ながら音楽も聴き応えあり!

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『ボクは坊さん。』
(C)2015映画「ボクは坊さん。」
『ボクは坊さん。』
(C)2015映画「ボクは坊さん。」

今週から全国公開される『ボクは坊さん。』は、愛媛県今治市にある栄福寺の住職、白川密成による同名のエッセイが原作。

[動画]吉田山田の主題歌が心に染みる『ボクは坊さん。』 予告編

四国八十八ヶ所霊場第57番札所である高野山真言宗のこの寺院を、わずか24歳で継ぐことになった密成氏が日々の経験や所感を綴った原作は、2001年から2008年まで人気ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」で連載されたもの。その後2010年に、個性的な書籍を多く刊行することで知られるミシマ社から単行本化されている(9月には続編にあたる「坊さん、父になる。」も刊行)。

タイトルやメインビジュアルのイメージから、昨今の“プチ坊さんブーム”を煽るようなコメディタッチの映画をイメージする人がいるかもしれないが、内容はいたってシリアス。人間の生と死に深く関わるお坊さんという仕事を丁寧に描き出し、現代の暮らしにも仏の教えが役立つことを見る者に伝えるものだ。

また、原作をベースにしながらも新たな登場人物やエピソードを加えることでストーリー性を高め、実話にとらわれないヒューマンドラマに仕立てているところも映画版の特徴と言える。監督は『ALWAYS 三丁目の夕日’64』で監督助手をつとめた真壁幸紀。本作が監督デビュー作となる。

撮影は実際に今治市の栄福寺で行なわれ、密成氏本人がスーパーバイザー的な役割で関わっている。主演の伊藤淳史は撮影前から現地に滞在し、お経の唱え方や結婚式、お葬式の所作などを教わったという。濱田岳や山本美月、溝端淳平など話題のキャストが脇を固めているが、なかでも個性が光るのはイッセー尾形。檀家の長老という実年齢以上の役どころを、ストイックに演じきっている。

独特の“間”を持つ伊藤淳史の演技と今治や高野山の静謐さが前面に出た作品なので、音楽の存在感は比較的地味だが、ところどころで聴ける劇伴はなかなか興味深い。ピアニスト/作曲家の平井真美子が手がけるスコアは、ピアノとストリングス・カルテットの演奏をベースとしながら木琴などのパーカッシヴな音色を時折挟み込むことで、お経の木魚やリンの音にもつながるような響きを作り出している。キッズパーカッション(子ども用のタイコ)を使った音楽紙芝居などの活動を行なっている人だけに、打楽器的なセンスの鋭さが本作にもうまく活かされているようだ。なお、主題歌には人気デュオの吉田山田による書き下ろし曲「Today,Tonight」が使用されている。

高野山開創1200年を記念して作られた本作。シリアスで重いテーマを扱いながらも、そのトーンはどこか爽やかでポップと言っていいものだ。1200年という歴史の重みとか格式ばったところは感じさせない。原作を読んだ人も読んでいない人も新鮮な気持ちで見ることのできる作品に仕上がっていると思う。(文:伊藤隆剛/ライター)

『ボクは坊さん。』は10月24日より公開される。

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。

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