渡辺大知監督による第1弾作品『モーターズ』が公開される。神戸出身の4人組バンド、黒猫チェルシーのフロントマンである彼は、映画『色即ぜねれいしょん』(田口トモロヲ監督&みうらじゅん原作)や連続テレビ小説『まれ』などで役者としても知られているが、初監督作品にして編集と音楽も担当した本作は、もともと母校である東京造形大学の卒業制作として撮影されたものだという。これが「第36回PFFアワード2014」で審査員特別賞を受賞。一般上映に結びついたようだ。
田舎の自動車整備工場に勤める風采の上がらない男、田中の恋路を中心に、工場の仲間たちの日常を描いた作品で、特に大きなドラマ性があるわけではないものの、彼らの暮らしぶりや会話の端々に表れるルーズな空気感がたまらなくいい。単調な生活に不満や鬱屈を抱えるわけでもない彼らに、そこはかとなくバイオレンスの予兆を感じ取ることはできるものの、何か起こりそうで結局は何も起こらない。その絶妙な匙加減に気分が同調する人は少なくないと思う。
主人公の田中を演じるのは渋川清彦。2015年だけでも『チョコリエッタ』『ジョーカー・ゲーム』『深夜食堂』『ソレダケ/that’s it』『ラブ&ピース』『お盆の弟』『コントロール・オブ・バイオレンス』などの出演作が相次ぐ売れっ子だが、本作でも一度見たら忘れられない彼独特の“顔”の魅力を存分に味わうことができる。
そのほかのキャストでは、ピンク映画から大作まで幅広い活動を見せる川瀬陽太(村田役)や、舞台を中心にキャリアを重ねている木乃江祐希(ミキ役)らが目を引くが、卒業制作ということもあってか基本的にはほとんどの役者が無名。しかし、工場を辞めてバンドマンを目指すタケオを演じる犬田文治や、ミキの恋人の前田を演じる前田裕樹らの演技は、どこまでも自然で印象深い。前田は黒猫チェルシーと交流のあるバンド、SPANGLEのギタリストとしても知られている。(後編へ続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)
・【映画を聴く】後編/黒猫チェルシー・渡辺大知のマルチな才能が冴え渡る初監督作『モーターズ』
『モーターズ』は11月14日より全国公開される。
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・[動画]『モーターズ』予告編
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