“ラブコメの帝王、ヒュー・グラントの新境地!”と話題の映画『Re:LIFE〜リ・ライフ〜』。若くしてオスカーを手にしたものの、その後は長いスランプが続いて仕事がなくなり、生活のために片田舎の大学講師の職に就いた映画脚本家の再出発を描いたヒューマン・ドラマだ。
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彼の演じるキースは皮肉屋で、講師の仕事も生活のためとしか思っていない。着任前日から女子学生に手を出したり、初日の講義を5分で終わらせた上、いきなり1ヵ月休講にしたり……。確かにラブコメではないが、ヒュー・グラントらしさはあちこちに感じられるので、彼のファンなら自然に入っていける作品に仕上がっている。というのも、監督と脚本を務めるマーク・ローレンスは、これまでも『トゥー・ウィークス・ノーティス』(02年)や『ラブソングができるまで』(07年)などの監督作品でヒューをたびたび起用しており、ヒュー自身も監督を「僕にぴったりの台詞を書いてくれる」と評するぐらい、両者は深い信頼関係で結ばれているからだ。
主人公が映画脚本家だけに、本作では映画にまつわるトリヴィアが数多く登場する。彼の講義を受ける生徒たちも筋金入りの『スター・ウォーズ』オタクや、『ダーティ・ダンシング』などの王道が好きなミーハー系、タランティーノやベイルマン、クロサワが命のゴス系までさまざまだ。なので、映画が好きであるほど楽しめる作品なのは間違いないのだが、音楽もチェックしておいて損はない。
本作の音楽を担当するのは、マーク・ローレンス監督の息子、クライド・ローレンス。早くから音楽の才能を発揮した彼は、6歳の時に父のマークが脚本を担当した『デンジャラス・ビューティー』(01年)に楽曲を提供、12歳の時に作詞作曲した「Dance With Me Tonight」が『ラブソングができるまで』の中でヒューによって歌われている。現在は妹のグレイシーとともにLawrence名義でバンド活動も行なっているようだ。
ここでの彼の劇中音楽は、とても手堅く真っ当で、しかも素直で屈託がない。アコースティックなトーンをベースにした、風通しのいい小編成の楽曲が中心だ。父の手がける作品以外で映画音楽の仕事を耳にしたことはないが、本作については音楽そのものが主張すべき物語ではないから、とても職人的に的確な仕事をこなしていると言える。映画音楽の分野での幅広い活躍を期待したくなる、器用な逸材だと思う。
そのクライドによるオリジナル・スコアのほか、本作では人気シンガー・ソングライターのマデリン・ペルーが2004年に発表した名曲「Don’t Wait Too Long」や、アメリカの新進インディ・ポップ・バンドのStolen Jarsが今年リリースしたデビューアルバムからの楽曲も使用されており、サウンドトラック・アルバムはなかなか聴き応えのある内容になっている。映画を気に入った方は、こちらも一聴をおすすめしたい。(文:伊藤隆剛/ライター)
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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