AV引退後に突きつけられた拒絶、「変なビデオを流すんじゃないだろうな」と怒鳴り込まれたことも
女性差別の一端をAV業界が作っている?
【日本映画界の問題点を探る/番外編/AV出演の本当のリスクとは? 3】アダルトビデオ(AV)の世界で90年代後半に大人気を博し、DVDの総売上枚数100万枚以上を誇る元クイーン女優の小室友里。引退後は経営者として活動する一方、いまなお業界の内外からさまざまな意見が挙がっているAV新法(※1)の成立にも関わった。そんな彼女に聞く3回目。
※1:正式名称「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律」。「V出演被害防止・救済法」とも呼ばれる。
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AV新法に対しては賛否両論あるなか、賛成の立場を表明している小室。反対の声も大きく、「私は業界からすれば目の上のたんこぶ」と自身のことを表現するが、反対派の気持ちがわかる部分もあるという。
「いま活動している方と、業界を離れた社会で生きている私とでは着目点も違いますし、収益が落ちることは女優さんたちにとって死活問題であることも理解しています。もし、私がいま現役だったら同じように文句を言っていたかもしれません。けれども、いまは女優さんも個人事業主ないしフリーランスとしてメーカーと契約をしているので、厳しい言い方かもしれませんが、情報や営業を取りに行くのも収益が減ってしまうのも、ひとつひとつ突き詰めて考えていくと、事業化しているご自身にも責任の一旦があるということになります。ただ、AV業界しか社会を知らなければ、そういった視点を持つのはとても難しいとも思います。社会に出たばかりの右も左も分からない人たちに、人生を狂わせるかもしれない契約書を書かせるのですから、AV業界の義務としてAVに携わる事業家の知識を育てて欲しいと思います」
ほかにも、AV業界から離れたからこそ見えてきたこともあったと続ける。
「外から見て気が付いたことは、日本社会にある女性差別の一端をAV業界が作っている可能性があるという事実。最初から最後まで女性が『嫌だ』と言い、拒否し続けている作品はおそらくほとんどありません。女性の性が男性の意図するものに変換されてしまうので、女性差別だけでなく、女性の価値そのものが低いという誤った認識が無意識のうちに男性に刷り込まれてしまうかもしれない怖さに、業界の外に出てから気づきました」
その現実を目の当たりにしたのは、小室が業界を引退し、第二の人生を歩み始めたときだったと振り返る。
「いまでこそ、日本全国で講演活動をさせていただいていますが、講演活動を始めた当初は、男性からも女性からも、はっきりと『ノー』と言われていました。きっちり稟議を通して開催された講演会だったにも関わらず、私の経歴を見た参加経営者が「会場で変なビデオを流すんじゃないだろうな!」と控室に怒鳴り込んできたこともありました。AV出演のキャリア、特に女性のAV出演者との関わりは、経営者の方々からするとご自身のマイナスブランディングになる可能性が多いので、一緒に仕事はできない、と。いまでもそういった理由で断られることはありますが、私は仕事をする以前に、『小室友里ってどういう人間なの?』というのを知ってもらうために、お一人おひとりとしっかり話し合うようにしています。それを続けていたところ、講演事業を始めて5年目でやっと商工会議所などのお仕事をいただくことに。そういった一般的に安心材料となる前例ができたことで講演依頼が来るようになり、事業として成り立つようになりました。けれども、今、業界で活躍している方々が、引退した私の言葉を受け入れ難いのは当然です。また、意見が異なるのも当然だと思います」
これらを踏まえたうえで、小室が今後力を入れたいと考えている活動の1つは、女性のためのセカンドキャリア支援。
「女性をサポートする協会を立ち上げたいと考えています。私としては、女性が経済的な理由から望まない性の商品化を強いられることは避けて欲しいのです。実際に何人ものAV女優さんがご自身のセカンドキャリアを考えて相談に来られましたが、お話を伺うと社会人として成長すべき時間を業界で過ごしてしまった方ほど、一般社会で働くのは難しそうだなと感じます。自分で事業を立ち上げたいと思っても、ビジネススキルがなければ、いくらお金があっても難しいでしょう。シングルマザーも、性産業従事者も、元女優だった女性たちも、性の商品化の一旦にはお金の問題が少なからず関わっています。いまは、そういった支援活動に協力してくださる方々を募っているところです」【4 AV業界に入ることを考えている女性たちに伝えたいこと】に続く(2022年12月11日掲載予定)(text:志村昌美/photo:中村好伸)
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