音楽映画よりも音楽的!? ヌーヴェルヴァーグ的手法が光るラブストーリー

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『メニルモンタン 2つの秋と3つの冬』公式サイトより
『メニルモンタン 2つの秋と3つの冬』公式サイトより

『メニルモンタン 2つの秋と3つの冬』

『メニルモンタン 2つの秋と3つの冬』は、そのタイトル通り、パリ東部の第20区にあるメニルモンタンを舞台としたラブストーリー。ボルドーの美大を卒業した後、定職にも就けず冴えない日々を送る33歳のアルマンと、美術ライターを目指して画廊で働く27歳のアメリの出会いから“2つの秋と3つの冬”が過ぎるまでを描いている。

アルマンとアメリが外見的・内面的に特別なものを持った人物というわけではないし、物語に何かびっくりするようなオチがあるわけでもない。どこにでもいるような男女の、どこにでもあるような恋路なのだが、目の覚めるような演出と編集によって斬新さとリアリティがほどよくバランスしており、見る者に既視感のあるラブストーリーとはひと味違った印象を与える。

登場人物がいきなりカメラ目線で語り始めたり、撮影フォーマットは8mmや16mmのフィルムから4K解像度のデジタルビデオまでが混在していたり、唐突なカット・アップが施されていたり。ヌーヴェル・ヴァーグの作品を引き合いに出されるのも納得の本作を監督したのは、セバスチャン・ベベデール。主人公のアルマンと同じくボルドーの美大を卒業しているので、本作には彼の自伝的要素も多分に含まれているのだろう。物語の原形はもともと中編程度のコンパクトなサイズで撮られたもので、それを長編として拡張する形で90分の本作が製作されたという。資金面ではカンヌ国際映画祭“ACID”の助成を受けており、監督としての期待度の高さがうかがえる。

アルマン役のヴァンサン・マケーニュは、舞台出身のマルチな才人で、『女っ気なし』や『やさしい人』での主演のほか、今年は初の長編監督作品も手がけている。『SAINT LAURENT/サンローラン』での怪演も印象的なルイ・ガレルらとともにフランスの新世代を担う役者として、今後さらなる活躍が期待できそうだ。

実際に劇中音楽を多用しているわけではないのに、作品全体を“音楽的”に感じるのは、その編集がどこまでも小気味いいから。その点も、いかにもヌーヴェル・ヴァーグ的と言っていいかもしれない。編集を担当したジェリー・デュプレとベベデール監督は、この映画をあたかも一枚の楽譜、もしくはレコードのように構成したかったという。ダンス・ミュージックを軸に、時にメランコリックな要素が絡んでくるレコード。そんな彼らの狙いは、見事に達成されている。

また、フロントマンのイアン・カーティスが自殺した英国のポスト・パンク・バンド、ジョイ・ディヴィジョンのエピソードが出てきたり、70年代フレンチ・ポップの代表格であるミッシェル・デルペッシュの「狩人」がシュールな形で流れるなど、音楽好きが思わず反応してしまうディティールが散りばめられているところも見逃せない。

愛のない音楽映画よりも音楽やその周辺への理解が深く、作品にもそんな気分が行き届いている。だからその後味には、スピーカーを通して名曲と対峙した時のような親密さがある。『メニルモンタン 2つの秋と3つの冬』は、そんな不思議な魅力に溢れた作品だ。(文:伊藤隆剛/ライター)

『メニルモンタン 2つの秋と3つの冬』は12月5日より公開中。

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。

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