(…前編より続く)
[音楽のよかった映画ベスト10]
1位『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』
2位『はじまりのうた』
3位『セッション』
4位『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』
5位『Dearダニー 君へのうた』
6位『わたしの名前は…』
7位『リザとキツネと恋する死者たち』
8位『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』
9位『モーターズ』
10位『あの日のように抱きしめて』
・【映画を聴く】(前編)音楽のよかった映画ベスト10/1位は妄想も加味されたベルセバの青春ミュージカル
今年は『JIMI:栄光への軌跡』や『ジェームス・ブラウン最高の魂を持つ男』といった超大物ミュージシャンを扱った王道的な伝記映画が何作か公開されましたが、その路線では4位『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』が個人的にぶっちぎりの傑作。ロック&ポップス界のレジェンドの中でもとりわけ波乱に満ちた半生を歩んできたビーチ・ボーイズのリーダー、ブライアン・ウィルソンの物語だけに、ドラマ性において本作を超えるミュージシャンの伝記映画は今後なかなか出てこないのではないかと。
5位『Dearダニー 君へのうた』は、アル・パチーノがジョン・レノンに心酔するミュージシャンを演じたことで話題になった作品。イギリスのスティーヴ・ティルストンというフォーク系シンガー・ソングライターが実際に経験した数奇なエピソードを膨らませた脚本と、劇中のキャッチーなオリジナル曲が秀逸です。
6位の『わたしの名前は…』は、ファッション・デザイナーのアニエスベーによる初監督作品。衣装や美術はもちろんのこと、ストーリーラインから撮影、音楽にまで彼女のセンスが行き届いていて、音楽映画ではないのに上質な音楽映画を見ているような気にさせてくれます。センスのよさで言えば7位のハンガリー映画『リザとキツネと恋する死者たち』も。謎の日本人歌手(の亡霊)を登場させたダーク・ファンタジー調で、ウッイ・メーサーロシュ・カーロイ監督の日本文化への理解の深さはジム・オルークあたりを連想させます。
8位は、グレン・グールドを扱った作品などで知られるフランソワ・ジラール監督の『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』。主演のギャレット・ウェアリングくんは本作の撮影後、リアルに変声期を迎え、物語のポイントになっている“高いレの音”も出ないそう。そんな一瞬のピュアネスを封じ込めた本作は、それだけでも価値のある一作と言えます。
9位『モーターズ』は、今回唯一の日本映画。4人組バンド、黒猫チェルシーのフロントマンである渡辺大知の初監督作品で、COMPLEXの「BE MY BABY」などをドラスティックに使ったギリギリのカッコよさが魅力的。『SR サイタマノラッパー』を撮った頃の入江悠監督を思わせるようなオフビート感はそのままに、これからも撮り続けてほしいなと。
10位『あの日のように抱きしめて』は、クルト・ワイルの名曲「スピーク・ロウ」をキー・トラックにしたメロドラマ。ユダヤ人の声楽家を演じるニーナ・ホスの歌声の味わい深さだけでなく、楽曲と物語の有機的な結びつきが素晴らしい。2月にリリースされるDVDで、細部まで何度も見返したい作品です。
その他、外国映画では『メニルモンタン 2つの秋と3つの冬』『チャップリンからの贈りもの』『エール!』、日本映画では『ピース オブ ケイク』『心が叫びたがってるんだ。』『トイレのピエタ』あたりも印象に残った2015年。ここでは除外しましたが、ドキュメンタリーものも洋邦問わず豊作でした。来年もハリウッド大作から単館上映系まで、音楽の優れた作品をたくさん紹介していきますので、引き続きよろしくお願いします。(文:伊藤隆剛/ライター)
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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