(…中編より続く)
北川景子の素はこんな感じ!?
明るく勝ち気なヒロイン像
故・森田芳光監督の劇場デビュー作『の・ようなもの』の続編『の・ようなもの のようなもの』が公開される。本作の主人公・志ん田も『の・ようなもの』の志ん魚のように飄々とした青年で、『僕達急行 A列車で行こう』の松山ケンイチが演じている。『の・ようなもの』の志ん魚よりも純粋でまっすぐな青年に見えるのは『僕達急行 A列車で行こう』の小町とダブるからかもしれない。落語の笑艶譚のように『の・ようなもの』ではエッチなくだりもあるが、本作にないのは小町のイメージなのかもしれない。
・【元ネタ比較】前編/女優・北川景子の恩人を偲ぶ『の・ようなもの のようなもの』はこんな作品!
・【元ネタ比較】中編/女優・北川景子の恩人を偲ぶ『の・ようなもの のようなもの』はこんな作品!
ヒロインの夕美を演じるのは『間宮兄弟』で映画初出演を果たした北川景子だ。今は大人の女優のイメージもあるが、『間宮兄弟』のときと同じ役名で、彷彿とさせる明るく勝ち気な女の子を好演。クールな雰囲気の北川だが、先日のDAIGOとのおめでたい結婚会見で突っ込んだり笑ったりしている姿をみると、意外と彼女のスの要素なのでは、と思わせる。
明るい夕美は高校生でスクーターに乗る『の・ようなもの』の由美にも重なるが、そうなると『の・ようなもの』の真のヒロインと言える、秋吉久美子が演じた風俗嬢のエリザベスの姿もさがしてしまうところだ。だが、『の・ようなもの のようなもの』には秋吉久美子もそれらしきキャラクターも登場せず、そこはちょっと残念というか寂しく思う。
とはいえ、本作には森田作品にゆかりの役者たちがたくさん登場し、そこも見ものとなっている。尾藤イサオは『の・ようなもの』と同じ師匠の志ん米役でとぼけた味わいを添えおり、主題歌も同じく尾藤が歌う「シー・ユー・アゲイン雰囲気」。また、『の・ようなもの』がデビュー作となるでんでんも志ん水役で登場。
それだけでなく、『メイン・テーマ』の野村宏伸、『家族ゲーム』の宮川一朗太、『僕達急行 A列車で行こう』のピエール瀧、『39 刑法第三十九条』の鈴木京香、『間宮兄弟』の佐々木蔵之介&塚地武雅などなど、ほかにもいっぱい顔を見せる。ただ出演しているだけじゃなく、各役者がそれぞれの作品で演じたキャラクターの雰囲気を持った役どころに扮しているのが面白い。
役者たちだけでなく、作品全体も森田作品そのものではないが、森田作品のおもむきがある。『の・ようなもの』ほど突飛で攻めた演出ではないものの、妙な間合いやリズム、ズレたやりとり、とぼけたような映像の遊びには森田ワールドの呼吸を感じる。
それはいびつで萎縮した模倣ではないし、オマージュというような湿っぽい念も感じない、まさに“のようなもの”。とても自然に森田作品の息遣いがあり、森田ワールドに包まれている心地よさがある。
きっと人を驚かせるのが好きだっただろう森田芳光監督も、この不思議なほどに漂う森田ワールドと、この作品の企画自体に草葉の陰でびっくりしているだろう。それも含めてニンマリとしてしまう愛を感じる作品だ。(文:入江奈々/ライター)
『の・ようなもの のようなもの』は1月16日よりされる。
入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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