月命日の集まりのなかで自然と生まれた
『の・ようなもの のようなもの』
2011年の暮れに森田芳光監督が急逝し訃報を聞いたときは、もう新たな森田ワールドを見ることはできないという絶望感が自分の中にじわじわと広がったものだった。あれから丸4年、この冬、いたずらっ子の少年のような森田監督にふさわしい、嬉しい驚きが舞い込んできた。1981年の森田監督の劇場デビュー作『の・ようなもの』の35年ぶりの続編『の・ようなもの のようなもの』が公開されるのだ。
メガホンを執るのは『の・ようなもの』以降30年の間、森田監督の下で助監督・監督補をつとめてきた杉山泰一氏。プロデューサーは森田芳光夫人であり、初期から森田監督作に携わり、多数の作品をプロデュースしてきた三沢和子氏だ。両人に新作『の・ようなもの のようなもの』の製作秘話から、森田作品への思い、そして森田監督の思い出まで存分に語ってもらった。
『の・ようなもの』は学生時代に落語研究会に所属していた森田監督が、二つ目の若手落語家・志ん魚(しんとと)を主人公に、“何者かではない、まだ○○のようなもの”であるモラトリアムな若者像を、森田監督らしい独自の視点で描いた青春ドラマだ。
筆者がちょうど学生時代に『の・ようなもの』を見て感銘を受けたことを伝えると、三沢氏は「そういうときに見ると、身につまされますよね」と気持ちを汲み取ってくれた。さらに「当時、これから世の中に出ていく人は志ん魚と同じ気持ちになったと思いますが、その頃と違って今は世の中が不安定だから、若者だけじゃなく幅広い世代の人が共感できると思います」という。
現代にも合ったテーマ性であることから、もしかして森田監督が存命のときから『の・ようなもの』の続編の企画はあったのではないかと思ったが、それはないのだとか。森田監督が急逝した当時、追悼上映や本を出版したが、過去のことをやってるだけじゃダメだ、何か新しく発信しないといけないと三沢氏は考えた。
「森田の月命日のとき、『の・ようなもの のようなもの』の劇中で志ん米(しんこめ)の家に集まっているように、遺された仲間たちが集まってくれて。これをこのまま映画にしたいと思うようになったんです」。
プライベートで集まった会で相談を重ねて形になっていった。会社で顔を突き合わせてミーティングをしたことなどは一度もなかったそうだ。
なぜ、数ある森田監督作のなかでも『の・ようなもの』の続編なのかと聞くと、「伊藤(克信)さん(前作『の・ようなもの』の主人公・志ん魚役で、新作『の・ようなもの のようなもの』でも同じ役を演じている)がいたからです(笑)。月命日に集まろうって言い出したのも伊藤さんだし」と三沢氏はあっさりと答えた。それだけ自然に決まっていったのだろう。杉山氏が監督をつとめるのも自然なことだったのだとか。
三沢氏「杉山さんは『の・ようなもの』から『僕達急行 A列車で行こう』まで30年間、一番下のカチンコからセカンド、サード、チーフというように助監督だったので、この作品は杉山さん以外には考えられませんでした」と、信頼を置いている。
杉山監督はというと「最初は抵抗してみました(笑)。だって、続編の監督をやるなんておこがましい話だから。でも、タイトルがね、『の・ようなもの のようなもの』で、すべてをエクスキューズしてしまうようなタイトルだからいいじゃない?って思えました。“のようなもの”って言ってるんだから」と笑う。「まあ、タイトルのことは半分はシャレだけど、まずは脚本を書いていっていいのができればいいし、ダメなら諦めるしかないかと」、脚本に取り掛かった。1年かけて打ち合わせしながら推敲を重ね、これならいけると踏んだ時点で、松山ケンイチに声をかけた。すると、快く引き受ける返事がかえってきて、そこから実現に向けて転がり出すこととなった。(中編へ続く…)(文:入江奈々/ライター)
・【映画作りの舞台裏】中編/森田監督が最も信頼していた若手、松山ケンイチと北川景子の主演作ができるまで
・【映画作りの舞台裏】後編/森田監督が最も信頼していた若手、松山ケンイチと北川景子の主演作ができるまで
『の・ようなもの のようなもの』は1月16日より公開される。
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