『幸せをつかむ歌』
ジョナサン・デミ監督『幸せをつかむ歌』は、メリル・ストリープとメイミー・ガマーという、実の母娘の共演が話題の音楽ドラマだ。ふたりが演じるのは、ミュージシャンとしての夢を追って家族を捨てた母のリンダと、離婚して自暴自棄になっている娘のジュリー。昨年日本でも公開された『イントゥ・ザ・ウッズ』で美しい歌声を披露したメリルが、ここでは“女版ブルース・スプリングスティーン”とでも言いたくなる、見事な熟年ロック・ミュージシャンぶりを見せている。
長年連絡を絶っていた母娘が再会。互いへのわだかまりをぶちまけ合いながら次第に距離を縮めていくという、物語としてはそれほど新鮮味のないものだが、その作品性を高めているのは何よりメリルの役への取組みだ。リンダを演じるため、彼女はニール・ヤングに直接ギターの指南を受けたそうで、自分のパートはすべて自分で弾くという徹底ぶり。いつもながらにその女優魂は半端ではない。
劇中でリンダが率いるのは、リッキー&ザ・フラッシュというバンド。LAの場末のバーでハウス・バンドとして活動しており、決して売れっ子とは言えないながらも、常連客を相手に悪くない毎日を過ごしている。バンドのレパートリーはオリジナル曲のほか、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ「American Girl」、エドガー・ウィンター「Keep Playing That Rock & Roll」、U2「終わりなき旅」、ドビー・グレイ「Drift Away」、レディー・ガガ「Bad Romance」など。バンドとして入念にリハーサルを重ねたことが一聴して分かるほど、その演奏はこなれている。
劇中で演奏されるカヴァー曲で特に印象的なのが、ブルース・スプリングスティーンの「My Love Will Not Let You Down」だ。メリルの役どころを“女版ブルース・スプリングスティーン”と感じるのは、この曲があまりにもよくハマっているから。もともとは1998年の未発表曲集『Tracks』に収録された曲で、メガヒット・アルバム『Born In The U.S.A.』のアウトテイクだ。彼の楽曲の中ではそれほど知られていない部類に入るが、この曲を選んだのは他ならぬメリル本人だという。偶然ラジオでオンエアされているのを聴き、リンダにぴったりの曲だと直感的に思ったのだそうだ。“俺の愛はおまえをがっかりさせることはない”と歌われるこの楽曲は、確かにリンダのジュリーを思う気持ちを力強く代弁している。(後編へ続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)
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