【映画を聴く】『教授のおかしな妄想殺人』前編
音楽にはラムゼイ・ルイスの
グルーヴィーなピアノ曲を多用
80歳になった今もペースを落とすことなく毎年作品を撮り続けているウディ・アレンの新作『教授のおかしな妄想殺人』が公開される。ヒロインは昨年に日本公開された『マジック・イン・ムーンライト』からの連続起用となるエマ・ストーン。その相手役にして心を病んだ大学教授、エイブ・ルーカスを、初のアレン作品参加となるホアキン・フェニックスが演じている。
“EF Windsor”というフォントを使った黒地に白文字のタイトルロールこそおなじみのウディ・アレン映画という感じだが、そこに従来使われることの多かったニューオーリンズ・ジャズやスウィング・ジャズがBGMとして被ることはない。無音のままタイトルロールが進み、終わる直前にラムゼイ・ルイス・トリオの「The ‘In’ Crowd」がフェード・インしてくる。そして『ミッドナイト・イン・パリ』のように、パリのロマンティックな風景をたっぷり見せるわけでもなく、疲れ果てた顔でクルマを運転するエイブの、カントの言葉を引用したモノローグが始まる。そんなオープニングからも、本作がコメディをベースとしながら相当にブラックかつシリアスな内容であることは明らかだ。「The ‘In’ Crowd」に限らず、本作ではラムゼイ・ルイス・トリオの「Wade in the Water」や「Look-A-Here」などが全編を通して使用されており、そのファンキーなグルーヴ感が話をテンポよく進めることに一役買っている。
エイブは、前作『マジック・イン・ムーンライト』でコリン・ファースが演じたマジシャンのスタンリーと同じぐらいペシミスティックで人生に絶望している中年男だが、とある完全犯罪を思いつくことで生きることの意味を見出していく。その言い回しがあまりにもスノッブで、それでいてアレンならではの韻律のキレも今ひとつに感じられた『マジック〜』のスタンリーに比べると、偶然に翻弄されるエイブの姿にはより泥臭く真実味があり、言葉からも滑稽さが滲み出ている。エマ・ストーンの演じるヒロイン、ジルとの恋愛模様を絡めることで重々しくシリアスに傾いていくストーリーラインをすっきりと見せるところは流石で、熱心なアレン・ファンなら十分に楽しめる作品に仕上がっている。(後編「ライヴ録音のテーマ曲が劇場効果を倍増!」に続く…)
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