【映画を聴く】『さとにきたらええやん』前編
どんな子どもも受け入れる
釜ヶ崎の「こどもの里」
『さとにきたらええやん』は、“日雇い労働者の街”として知られる大阪市西成区釜ヶ崎で長年にわたって活動を続けてきた「こどもの里」に材を取ったドキュメンタリー映画。さまざまな理由で“さと”に身を寄せる子どもたちとその親、そして彼らの抱える問題に深く分け入って対話を試みる職員たちの日常を追っている。
この街出身のヒップホップ・アーティスト、SHINGO★西成の楽曲を随所に使用(本人もライヴ映像などで出演)。“釜ヶ崎=治安が悪く危険なところ”という従来の偏ったイメージだけでは計り知ることのできないこの街の本質的な闇の深さ、それでも前を向いて進んでいく人々の強さと明るさにスポットが当てられる。本作が初監督作品となる重江良樹監督は、この施設にボランティアとして関わる中で取材と撮影を開始。7年をかけて完成にこぎ着けている。その歳月の重みを十分に感じさせる、じわじわと温かいものが胸にこみ上げてくるようなドキュメンタリーだ。
“あいりん(愛隣)地区”と呼ばれる釜ヶ崎に「こどもの里」の原型である「子どもの広場」が設けられたのは1977年。カトリック系の修道会である聖フランシスコ会が運営する「ふるさとの家」の一室で、最初は児童のための純粋な“遊び場”としてスタートした。親の多くが日雇い労働者である子どもたちの生活をある程度保障し、基本的な生活習慣を身につけることが当初の目的だったというが、時代の移り変わりとともにニーズも多様化。DVを受けた子どもや借金で行き場をなくした親の緊急一時宿泊所としての役割なども担うようになる。
1980年に運営する修道会が変わり、現在の住所に移転。「こどもの里」が設立された。たびたび存続の危機に直面しながら、現在は特定非営利活動(NPO)法人として0際から20歳前後までの子どもや青少年、その親に対して大阪市留守家庭児童対策事業(学童保育)、小規模住居型児童養育事業(ファミリーホーム)、大阪市地域子育て支援拠点事業(つどいの広場)、児童自立生活援助事業(自立援助ホーム)といった取り組みを行なっている。簡単に言えば、子どもたちにとっての“遊びの場”であると同時に“学びの場”であり“生活の場”。そして親たちにとっての“休息の場”であり“相談の場”というわけだ。24時間いつでも誰でも、基本的に利用料なしで受け入れる態勢を整えている。
“デメキン”の愛称で皆に慕われる館長の荘保共子さんの存在が、「こどもの里」の支柱だ。カトリック系の東京の大学を卒業後、所属する教会のボランティア活動で初めて釜ヶ崎を訪問。態度は粗暴でありながらも純粋な目をした子どもたちの姿に魅了され、釜ヶ崎の保育園に就職。30歳で先述の「子どもの広場」を始めた。以来40年近く、彼女のブレない運営方針とその人柄に惹かれてやってくるスタッフの熱心な働きによって、“さと”を訪れる親子は後を絶たない。(後編「日雇い労働者の人たちの思いを代弁する音楽」へ続く…)
・【映画を聴く】後編/たくましさに勇気づけられる!“日雇い労働者の街”の子ども達をラップにのせて活写!!
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