(…前編「どんな子どもも受け入れるこどもの里」より続く)
・【映画を聴く】前編/たくましさに勇気づけられる!“日雇い労働者の街”の子ども達をラップにのせて活写!!
【映画を聴く】『さとにきたらええやん』後編
日雇い労働者の人たちの思いを代弁する音楽
このドキュメンタリー『さとにきたらええやん』には、さまざまな境遇の子どもたちが登場する。発達障害のため、自分のやりたいことに集中すると周りが見えなくなってしまう5歳の男の子。時に彼に対して手を上げてしまうため、定期的に彼を“さと”に預けにくる母親は、自身も幼少時に受けた虐待のトラウマから抜けられず、カウンセリングを受けている。就職が決まり、高校卒業を目前に控えた少女もまた、母親の抱える問題から小学生のころ“さと”にやってきて、以来ずっと“さと”で生活している。兄弟の多い中学生の少年は軽度の知的障害にコンプレックスを持っており、そのイライラから家で兄弟に暴力をふるってしまう。
本作で音楽を担当するSHINGO★西成は、そんな“さと”の子どもたちの憧れの存在。本編には彼の釜ヶ崎でのライヴや、“さと”を訪問する姿なども収められており、地元が生んだヒーローとしての彼の存在の大きさがクローズアップされている。
釜ヶ崎を象徴する場所、三角公園の近くの長屋で育ったというSHINGO★西成は、高齢者福祉施設で仕事をしながら並行してライヴ活動を開始し、2006年にミニ・アルバム『Welcome To Ghetto』をリリース。地元である釜ヶ崎を“ゲットー(アメリカなどで大都市におけるマイノリティの密集居住地を指す用語)”と呼び、2007年に「ILL西成BLUES(GEEK REMIX)」のMV撮影をこの地で敢行したことがメディアに取り上げられたことで広く知られるようになったヒップホップ・アーティストだ。2009年には同じく西成区出身の赤井英和をフィーチャーしたシングル「串かつ(二度付け禁止)」もリリースしている。
育った街への思いをストレートな言葉で綴ったSHINGO★西成の音楽は、“さと”の子どもたちの姿や釜ヶ崎の街の風景と融和し、映像と切り離せないサウンドトラックとして見る者に迫ってくる。重江良樹監督は本作の編集において文字による説明をしすぎないように心がけたそうだが、彼の音楽が、映像だけでは伝わりづらい部分を見事に埋めてくれたという。確かに大阪弁のアクセントをナチュラルに生かした彼のライムは釜ヶ崎や“さと”の人々の思いを見事に代弁しており、本作の映像にポジティヴな光を注ぎ込んでいる。
本作のタイトル『さとにきたらええやん』の“さと”は、「こどもの里」だけではなく、見る者それぞれにとっての“さと”を指しているのだと重江監督は言う。誰にでも“さと”的な場所があり、繋がることのできる人がいる状態が理想というわけだ。隣人とのコミュニケーションすら希薄な現代社会にあって、「こどもの里」のように多様な人々が出入りするプラットホームは今や貴重な存在だが、実はそれこそが現代人の必要とする“つながり”の形であることも我々はどこかで承知している。どんな境遇に置かれても明るく人生を切り開いていこうとする子どもたちに元気をもらうばかりでなく、見る者がここから何を感じてどんな行動をとるのかを試すような作品である。(文:伊藤隆剛/ライター)
『さとにきたらええやん』は6月11日より全国公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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