【映画作りの舞台裏】『鷹の爪』FROGMAN氏に聞く/中編
◆速くて安くて量産できる!が時代のニーズ
今や大人から子どもまでに人気のアニメシリーズ『鷹の爪』だが、生みの親であるFROGMAN氏は「むしろ今流行りのアニメは嫌い、ほとんど見たことがないぐらい」なのだとか。驚くと同時に、アニメ界では異端扱いされる『鷹の爪』の独自性を思うと納得できる。
アニメ嫌いだったFROGMAN氏がアニメ制作を始めたのは、ずばり、お金をかけずに1人でできるから。今のようにネット動画が一般的でなかった10数年前に、島根でネットを使って映像を発表しようと志すが、島根で実写映像を制作して、尚且つ動画を配信するのは低コストでは難しい。しかし、アニメなら1人でできて、WebソフトのFlashを使えば手間もコストも抑えられる、というわけでやむにやまれずFlashアニメ制作を始めたのだ。「手間とコストをかけてたら、従来のアニメ制作と変わらないから意味がない。ただ、その頃は商業アニメでFlashを使う人はいなかったから、システムを一から作り上げなきゃいけないし、声優業も絵もやってきたわけじゃなかったから、試行錯誤の繰り返しでしたね」とFROGMAN氏は当時を振り返った。
そんな手探り状態で、2004年にテスト版として制作したFlashアニメ『菅井君と家族石』がネット上で話題に。FROGMAN氏は子どもも生まれることとなり、差し当たって出産費用を捻出するためにこの作品をコンテストに出しまくるが、ことごとく落ちまくったのだとか。
「TBS主催のDigiCon6というのにも出したけど、箸にも棒にもひっかからなくて。後になってからTBSの人に会った時には『あの時は落としてくれてありがとう』って嫌味を言った」と笑うが、そんななかで転機となったのは、今は彼も籍を置く制作会社DLEとの出会いだ。
CGアニメの『スキージャンプ・ペア』のヒットなどによって個人クリエイターに注目が集まっていた2005年、大阪で開かれたコンベンションで、DLEを設立した椎木隆太氏と出会った。多くの人が漫然と「ぜひDVD作りましょう」と行ってくるなか、「すごいスピードで作るそうですね。たくさん作れますか?」と聞いてきた椎木氏にFROGMAN氏は直感が働いたのだとか。「速く、安く、量産できることが僕のウリで、それが今後の動画コンテンツに求められることだと思っていたんです。ケータイやPCで動画を見るようになる時代、コンテンツを速くどんどん作るには従来のプロダクションではなく、コストも時間も小回りの利く個人やマイクロプロダクションがビジネスになると思いました」。FROGMAN氏は他を全部蹴って、同じ着眼点を持った椎木氏と組むこととなった。
また、彼はクリエイターに向けて「今の時代、作るだけじゃなくプロデュースまでしっかりできないと通用しない」とアドバイスする。ビジネスとして成立するか、もっとコスト削減できないか、宣伝はどのようにするか、なども考えられることが大切だと。「もちろん、作品の内容が面白いことは大前提としたうえで」。
椎木氏の会社DLEは、G.I.ジョーなどで知られるアメリカの玩具メーカーのハズブロ社と提携を結んでおり、椎木氏は逆に日本から海外に輸出できるキャラクターが欲しいと考えていた。ただ、それをいきなり海外に売り込むのではなく、まずは日本でTV放送して箔をつけてから、と。そこで椎木氏からFROGMAN氏へのリクエストは、日本のアニメファンは無視していい、萌えも漫画原作も要らない、アメリカで受ける勧善懲悪ものを、ということだった。そこでFROGMAN氏が提案したのが『鷹の爪』なのだ。その流れを考えると、『鷹の爪』が日本のアニメ界では異質で、ヒーローもののパロディのような内容なのが頷ける。
スピードを重視するFROGMAN氏と椎木氏はことが進むのも本当に速かった。2005年8月下旬に2人が出会い、10月からネットでミーティングをしながら『鷹の爪』のパイロット版を制作。椎木氏が営業に回ったところ、12月にテレビ朝日が名乗りを上げ、2006年4月からはTVシリーズ『THE FROGMAN SHOW』として放送開始されたのである。出会ってから半年ちょっとでもうTV放送を開始させたのだ。TVシリーズの制作のため、FROGMAN氏が東京のDLEオフィスで“怒涛の300連泊”を敢行したからこそ実現できたわけだが。見かねた椎木氏がベッドを購入するまでは椅子を並べてに仮眠をとり、タバコとトイレに行く以外は歩かなかったということからも、制作時の凄まじさが推察できる。この状況が生み出したトランス状態のおかげで、あれだけ破壊的で奇抜でユニークな作品ができたともいえるだろう。(後編「“クソアニメ”から“最高傑作”に評価が一変!」に続く…)
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