【男達の遠吠え】前編/渡瀬恒彦の哀しさが胸に迫る!
【男達の遠吠え】『鉄砲玉の美学』前編
本日の名セリフ:「わいは天佑会の小池清や!」
◆鬱屈した若い連中だけが評価
昭和の匂いたっぷり、男気溢れる映画の名セリフと共に、作品の魅力をお伝えするコラム「男達の遠吠え」。今回は、幻の名作!中島貞夫監督、渡瀬恒彦主演のATG作品『鉄砲玉の美学』(1973年)を取り上げます。
「鉄砲玉」とは、あるヤクザ組織が他の組織の縄張りを侵略する際に、そのキッカケを作るべく送り込む兵隊のこと。関西に本拠を持つ広域暴力団天佑会に所属するチンピラの小池清(渡瀬)が、たった100万円ぽっちの報酬につられて、九州制覇をもくろむ組の「鉄砲玉」となって宮崎に乗り込むこととなる――というのが本作の物語だ。
この映画がユニークなのは、東映のスタッフ・キャストで制作を担当しながらも、非商業主義的なアート作品を数多く制作してきたATGが配給を担当していることにある。大衆娯楽作品の王道とも言うべき東映ヤクザ映画と、自由な作家性を保証するATG映画という、この不思議なアンバランスさが、この映画の特異な魅力を醸し出し、知る人ぞ知るカルト作品と呼ばれるようになっている。ちなみに同作は現在、東映が権利を有しているようだが、なぜかこれまで未ソフト化。VHSもDVDも発売されたことはないが、しかし、現在はGyaOやDMM.comといった動画配信サービスで有料視聴することができる。
実録ヤクザ映画の金字塔『仁義なき戦い』と同年に公開された『鉄砲玉の美学』だが、決して多くの人に知られた映画とは言いがたい。だが、中島貞夫監督のインタビュー本「遊撃の美学」の中で、中島監督が「ATGファンからは不評だし、ヤクザ映画ファンも不満だし、その両方とも関係ない当時ちょっと鬱屈(うっくつ)してた若い連中だけが評価してくれた」と語る通り、自身に重ね合わせることができると狂おしいほどに心に突き刺さるものがある。
本作の冒頭では、ウサギ売りのテキ屋をやっている清の、パッとしない日常が映し出される。八百屋のオヤジに嫌な顔をされながらも、平気な顔でキャベツの切りくずを拾い集め、それをウサギのえさにしたと思いきや、自分もそのキャベツで焼きそばを作り、フライパンのまま食す。そんな日常にかぶせるように、天佑会の上層部とおぼしき男のヒソヒソ声で「誰ぞ若いヤツをひとり選べ。血の気が多くてクソ度胸があって、できるだけどでかい音をたててハジけるヤツや。何より大切なのは腕っ節や。己のことを恵まれとらんと思っているヤツや」。すると別の男の声が「ククク…、血の気が多くて、クソ度胸があって、己のことを恵まれんと思ってるヤツと言いよりましたな。心配いりまへんで。若いヤツはいつでもみんなそうでっせ――」。そう、若いヤツはみんなそうなのだ。・(後編「『タクシー・ドライバー』のデ・ニーロを彷彿!」に続く…)
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