【映画を聴く】『ストリート・オーケストラ』前編
サンバやボサノヴァだけじゃない!
実話をベースとした音楽映画
リオデジャネイロ五輪が開催中のブラジルより、またひとつ素晴らしい音楽映画が届いた。ブラジル最大の都市、サンパウロのスラム街を舞台に音楽教師と子どもたちの交感を描いた『ストリート・オーケストラ』という映画だ。
・『ストリート・オーケストラ』セルジオ・マシャード監督インタビュー
「ブラジルの音楽映画なのにクラシック? サンバやボサノヴァじゃないの?」と思う人がいるかもしれないが、実はこの映画、サンパウロ南部にある巨大なスラム街、エリオポリスに実在するエリオポリス交響楽団の誕生を描いた実話ベースの作品である。
かつて神童と呼ばれたヴァイオリン奏者のラエルチは、サンパウロ交響楽団のオーディションに落ちて失意のどん底。生活のため、すすめられるがままにスラム街で子どもたち相手にオーケストラの指導を始める。教室はグランド、楽譜は読めないし楽器の正しい持ち方すら知らない彼らは、日々を生き抜くことに精一杯。クラシック音楽にリアリティなど感じられるはずもない。
しかしラエルチが街のギャングに襲われた時にヴァイオリンの演奏を聴かせることで一難を逃れたと知り、懸命に練習を始めるようになる。暴力以外の方法で人の気持ちを変えられる、自分を守れることを知ったからだ。
腕とキャリアの十分な音楽家が生活のために不本意な環境で教師として働くことになる、というストーリーラインは、1996年のリチャード・ドレイファス主演作『陽のあたる教室』を思い出させる。また、昨年公開された日本映画『マエストロ!』は、名門オケのコンサートマスターだった松坂桃李の演じるヴァイオリン奏者が負け組楽団員とワンマン指揮者の間で奮闘する作品だった。オーケストラは人間関係の縮図と言えるので、そこに材を取る映画は今も昔も珍しくはない。ただ、本作がそういった作品と趣を異にしているのは、ロケーションが音楽大国のブラジルである点だ。(後編「音楽大国の深みを感じさせる演奏シーン」に続く)
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