【映画を聴く】番外編/1月のオススメ映画 前編
波の音がもたらす音楽以上の効果
音楽面から映画をチェックするコラム「映画を聴く」。毎週、多彩な映画レビューを掲載していますが、オススメしたい映画が多すぎてお伝えしきれないことも。そんな「取りこぼしてしまった」作品群から、「やっぱりオススメしたい!」という公開中の秀作をピックアップしてみました。
・不寛容の時代に問われる寛容の精神。巨匠スコセッシが描く“『沈黙 -サイレンス-』
●『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』(1月7日より公開中)
このところ、本作以外にもアドルフ・アイヒマンやヒトラー、ナチスを扱った映画は多い。この1、2年の作品でパッと思い浮かぶだけでも『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』『サウルの息子』『あの日のように抱きしめて』『帰ってきたヒトラー』『手紙は憶えている』『ヒトラー暗殺、13分の誤算』、それに2月25日公開予定の『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』などなど。アルゼンチンに潜伏するアイヒマンの捕獲作戦を実現に導いた検事、フリッツ・バウワーの闘いの記録を映画化した本作には、たとえば『あの日のように抱きしめて』のクルト・ヴァイルの名曲や『サウルの息子』の最後に流れる無伴奏ヴァイオリン曲のような、ある種の絶望感を湛えた音楽は流れない。アイヒマンの拘束に向かって突き進むバウワーの英雄譚という色合いが強く、音楽もナチス関連の映画としては珍しいほどヒロイックかつドラマチックだ。
●『天使にショパンの歌声を』(1月14日より公開中)
カトリックのシスターたちが運営するカナダ・ケベックの寄宿学校を舞台に、女子学生たちが音楽コンクールで金賞を獲ることで廃校の危機を救おうとするドラマ。学園ものということで、作品としてはどこか『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』や『陽のあたる教室』、『いまを生きる』あたりを思い出す雰囲気があるが、ショパンの歌曲「別れの曲」をはじめ、ベートーヴェンやヴィヴァルディ、モーツァルト、リスト、ラヴェルらのクラシック曲で固められた音楽はクラシック入門にも最適。主役のアリスを演じるライサンダー・メナードは実際に音楽院でピアニストを目指し、モントリオール音楽院で学んだ才女。彼女の確かな演奏力が物語に説得力と品格を与えている。選曲がベタすぎないところもいい。
数ある遠藤周作のキリスト教小説の中で最も知名度のある一作を、マーティン・スコセッシが長い時間をかけて映像化。原作は1971年にも篠田正浩監督によって映画化されている(遠藤周作本人も脚本に参加、音楽は武満徹)。物語における最重要人物であるキチジローを演じる窪塚洋介ほか、役者として起用された塚本晋也監督、アダム “カイロ・レン” ドライバー、浅野忠信、イッセー尾形、黒沢あすかなど、出てくるキャストを追っているだけでも2時間41分が短く感じられる。タイトルが示すように、本作を覆うのは沈黙であり静寂。音楽らしい音楽は、ほとんど使われていない。しかしエンドロールで延々と続く波の音は、見る者に信仰についての思考を促すという意味で、通常のスコア以上の役割を果たしている。
(後編「注目の英国男子、ベン・ウィショーの傍若無人〜」に続く…)
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