(…前編「最低な母親の、描かれていない部分に思いをはせる」より続く)
【ついついパパ目線】『彼らが本気で編むときは、』後編
正論を振りかざしても解決できない
子育ては大変だ。特にシングルマザーならば、なおさらだ。近くに祖父母や頼れる人がいるならまだしも、ヒロミの母は病に伏しており、自身とも折り合いが悪い。そんな中、ヒロミはトモを、たぶん懸命に育てていたのだろう。しかし、いっぱいいっぱいになり子を置いて出ていってしまう。マキオの「またかよ」というセリフから、一度や二度ではないのがわかる。
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このあたりに母親としてのダメさがにじみ出ているのだが、育児放棄と開き直るだけの度胸もない。限界が来たらいなくなってしまうが、それは育児を続けていくために一時撤退しているともとれる。だって今まで何度も戻ってきているのだから……。さらにトモへの態度を見ていると、確実に子どもに甘えている。自分の未熟さを子どもに分からせようとしている。「私だって頑張っているんだから、分かってよ」みたいな。
でも、それでもヒロミを一方的に責められないと感じてしまう。ヒロミの子育てに対するSOSを受け取ってあげるべき人間が周囲にいないからだ。普通ならば夫がその役割を果たすのだろうが、ヒロミにはいないのだ。そのぶんマキオが、文句を言いつつもトモの面倒を見ている。だからヒロミは安心して何度も失踪できるのだろう。その意味では、ヒール役を一手に担ったヒロミにも救いがある。
物語のテーマは、リンコとマキオの絆、トモの成長を軸にした人間物語なのだろうが、最も感情移入してしまったのが、「しょーもない」と口を揃えて責められそうなヒロミという母親だった。どうしても悪い母親だと思いたくないという気持ちがあふれ出てきた。
決して子どもへの虐待やネグレクトを肯定するわけではないが、正論を振りかざしてダメ出ししても、根本は解決できないような気がする。そういう状況を察して、周囲がフォローしていく“やさしさ”も必要なのではないのか……と本作を見て強く感じた。(文:桂退助/ライター)
『彼らが本気で編むときは、』は2月25日より公開。
(かつら・たいすけ)
雑誌編集者を経てフリーライターに。アラフォーで授かった一人娘と共に、人生を一から学んでいる最中のおおよそダメ人間。
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