(…前編「セクシュアル・マイノリティへの理解が進まぬ日本の現状を浮き彫りに」より続く)
【映画を聴く】『彼らが本気で編むときは、』後編
りりィの最後の映画出演作品にして
音楽作品としても十分に楽しめる1本
前編でも触れたように、荻上直子監督の作品はオーガニックとかスローライフといった形容がぴったりくる“癒し系”として広く認識されている。グラフィカルなロケーションや、明るいけれど快晴ではないクリーミーな空を背景に、素朴な食材をていねいに調理し、残さずしっかり食べる人々。そういった所作を淡々と描くことで、平凡な日常のかけがえのなさを見る者に伝えるところは、いくつかの作品で共通している。
・最低な母親の、描かれていない部分に思いをはせる『彼らが本気で編むときは、』
音楽も前述の通り“間”を生かした上品なもので、一聴するとどれも似たような感じなのだが、作品ごとに微妙に熱量や湿度がコントロールされており、絶妙にマンネリ感を回避している。特に金子隆博が手がけた『めがね』のサウンドトラックは「メルシー体操」ほか、オフビートでコミカルな楽曲からシリアスなピアノ曲までバラエティ豊か。大貫妙子の主題歌を含むサウンドトラックは、音楽作品としても十分に楽しめる内容になっている。
なお、本作は昨年11月に亡くなった女優でシンガー・ソングライター、りりィの最後の映画出演作品でもある。70年代に坂本龍一らが在籍したバイ・バイ・セッション・バンドを率いて音楽活動を開始し、90年代以降は女優としても活躍。『リップヴァンウィンクルの花嫁』や『湯を沸かすほどの熱い愛』といった近作でも深みのある演技を見せていただけに、残念でならない。(文:伊藤隆剛/ライター)
『彼らが本気で編むときは、』は2月25日より公開される。
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