(…前編「ごり押し男、レイ・クロックはなぜマクドナルドの看板にこだわったのか? 」より続く)
【映画を聴く】『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』後編
マイケル・キートンの歌声にも注目
前編でも触れたように、実業家としてのレイ・クロックは、その評価が真っ二つに分かれている。ファストフード店に限らず、いまや多くの業種に通じるビジネスモデルを確立した英雄と評されるいっぽう、創業者を追い出して利益第一のグローバル化を進めた怪物とも言われる。マクドナルド兄弟の発明した、オーダーから30秒以内に商品を客に渡す“スピーディ・システム”を世界中に普及させたのは間違いなく彼の功績だが、それ自体を考案したのは彼ではないし、品質や味に強いこだわりがあったわけでもない。
・独善的で強欲で無情! 嘘と裏切りがぎっしり詰まった負け犬の一発逆転劇とは?
本作ではどちらかと言えば後者の怪物性の側面が強めに出ているが、レイの人間臭い部分を含めたさまざまな表情が、抑揚の効いた劇伴により鮮やかに浮かび上がる。音楽を担当するのは、コーエン兄弟やスパイク・ジョーンズの監督作品で知られるカーター・バーウェル。初めてマクドナルドのハンバーガーを食べた時の感動から、マクドナルド兄弟との緊張感に溢れる駆け引きまで、レイの感情の写し鏡のようなスコアを20曲近く提供している。バーウェルはもともとハズレのない職人的な音楽家だが、本作での仕事はとりわけ的確で、彼のキャリアでも屈指の出来栄えだ。
加えて、レイを演じるているのが芸達者なマイケル・キートンとあって、レイの後の再婚相手となるジョアン・スミス(リンダ・カーデリーニ)との出会いのシーンでは、ジャズのスタンダード曲「Pennies from Heaven」を両者がデュエットしている。連弾を交えたそのパフォーマンスは意外なほどエレガントで、俗物的なイメージの先行するレイの別の側面に光を当てている。
『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』は7月29日より全国公開される。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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