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【元ネタ比較】『亜人』後編
自ら腕を切り落とす過激アクションで迫る!
2015年に3部作として劇場アニメ化され、2016年にはTVアニメシリーズ化もされた大人気コミック「亜人」が実写映画化された。主人公・圭が不死身の生物である亜人だと発覚し、政府に捕らえて非道な実験の被験体となってしまう。原作では主人公のバックグラウンドが描かれるが、実写映画版ではいきなり主人公が捕らえてスタートするので置いてけぼり感をくらう。
さらに省略されたのは主人公のバックグラウンドだけじゃない。キャスティングに注目してきた原作ファンはお気づきだろう、海斗が出て来ないのだ。
主人公・圭と海斗との微妙な距離感が面白く、人懐っこくて友だち思いの海斗はいいヤツだけど何やら謎が隠されていて、亜人の鍵を握るのではないかと推測される人物。しかし、ストーリーを単純化するためか海斗は描かれず、圭の人物像も単純化している。
原作では幼馴染であった海斗が犯罪者の息子だと知ると関係を切るような利己的で合理的な圭なのだが、亜人であることが発覚してからは反対に人間味が出てきて“応援できる主人公”へと成長してゆく。実写映画版では、言葉で合理的というだけで、合理的だが感情面も育ってきた人間性の複雑な味わいは描かれない。
綾野剛演じる亜人の佐藤にしても、敵か味方かわからない男として圭に近づいてくるが、実写映画版でははなから“悪役登場!”といったところ。あれ? 綾野剛ってこんな演技下手だっけ?と思ってしまうほど。アニメ版のキャラクターを意識した役作りかもしれないが、実写だと過剰演技に思える。作り手としてはそうまでして、ストーリーや人間関係をシンプルにしたかったのだろう。
この佐藤は亜人に非道な実験を行う政府に抗うテロリストで、圭を仲間に引き入れようとして圭を追い、圭は政府からも佐藤からも追われる。亜人対政府という単純な図式ではないからだ。ストーリーや人物を削ってでも作り手が描きたかったもの、それはアクションだ。
本編の大半がアクションシーンで、ガンアクションもあれば肉弾戦もある。亜人は不死身なわけだからして当然激しく、ダイナミックなだけじゃなく、トカゲの尻尾のように自分の腕を切り落としたり、不死身を利用して傷ついた身体を再生すべく自害したりと過激だから、苦手な方は注意したほうがいい。
しかも、亜人や人間たちが戦うだけじゃない。亜人はIBM(インビジブル・ブラック・マター)という人間には見えない分身のようなものを放出して攻撃したり、IBM同士が闘ったりできるのだ。単行本の表紙に描かれている黒い包帯だらけの巨人のようなものがそれ。VFXを駆使したIBMのアクションシーンも迫力があって見ものだ。
『東京喰種』ではグールたちの内面的な葛藤や苦悩が重苦しく重点的に描かれて正直言ってつまらなかったと思うなら、『亜人』は派手なアクションに次ぐアクションで見せ場たっぷりなことに満足できるかもしれない。筆者は畳み掛けるアクションシーンでお腹いっぱいというか、麻痺してきて退屈になりボーッとしてしまった。
アニメ好きとしては、アニメ版の圭を演じた宮野真守が実写映画版の圭のIBMの声を担当し、実写映画版では割愛された政府側のキャラクター・曽我部をアニメ版で演じた鈴村健一がアナウンサー役でチラリと登場するのは見逃せなかった。こうしたアニメ版ファンへの目配せがあるのは嬉しい。(文:入江奈々/ライター)
『亜人』は9月30日より全国公開される。
入江奈々(いりえ・なな)
兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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