【週末シネマ】『女は二度決断する』
深刻化する難民・移民問題と正面から向き合う
牢獄の中で、ドレスアップした囚人の男性が向かった先にはウエディングドレス姿の女性がいた。腕にタトゥーがちらほら見える金髪で青い瞳の花嫁と黒髪の花婿は弾けるように幸せそうな表情で抱き合う。幸福の絶頂の場面から始まる『女は二度決断する』は、その後に更生したトルコ移民の夫と一男をもうけてドイツのハンブルクで幸せに暮らすカティヤを突然襲った絶望と復讐の物語だ。
・人種差別描いた名匠が語る信念/『女は二度決断する』ファティ・アキン監督インタビュー
事件はカティヤが夫のヌーリに息子を預けて外出した後に起きた。ヌーリがトルコ人街で経営する小さな会社が爆破され、最愛の2人が犠牲となる。ヌーリの出自や前科から、警察はトルコ系同士の抗争と決めつけた捜査を進めていたが、やがて外国人居住者を狙った極右グループの爆弾テロだったことが判明し、容疑者は逮捕され、裁判が始まる。
映画は3つの章で構成され、カティヤのたどる道のりを描いていく。第1章では、愛する家族を突然奪われた悲しみ、ネオナチの犯行と確信しながらも手がかりはなく、時間が過ぎていく中で絶望を募らせるカティヤの心情が痛切に伝わってくる。続いて容疑者である若いカップルと対峙する法廷劇になる。正義を求めるカティヤに、「疑わしきは罰せず」という原則を守る裁判の現実が立ちはだかり、彼女を復讐へと駆り立てる最終章へと向かう。
監督のファティ・アキンは、トルコ系移民の両親の下にドイツのハンブルクで生まれた。本作は2000年から2007年の間にドイツで起きたネオナチグループによる外国人排斥目的の連続殺人事件に着想を得ている。彼自身にとって非常にパーソナルな作品であり、カティヤという1人の女性の物語であると同時に、シリアなどから多くの難民が流入しているヨーロッパで深刻化する難民・移民問題と正面から向き合う作品でもある。
復讐は、失ったものを取り返してくれるのか? その答えは誰もが知っている。カティヤももちろん知っている。ならば、どうするのか。彼女の下す決断をどうとらえるか。ラストシーンが投げかける問いの答えは1つではない。(文:冨永由紀/映画ライター)
『女は二度決断する』は2018年4月14日より全国公開。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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